花柳 相+野
「俺たちって親友だよな。」
それは本当に突然。
何の前触れもなく同室の男は真剣な顔つきでそう言った。
確かにこれだけ長く特定の人間と付き合ったのは初めてでつまりその言葉が当てはまるくらいの間柄なのは正しい。
が、素直に是と言うのは照れくさい。
そんな俺の心境を知ってか知らずか…どうやら今回は俺の返事はそれほど重要ではないらしく、俺が何かを言う前に「それなのにさ」と野村は続ける。
「名字で呼び合うのって何かおかしくないか?」
真剣な顔つきで何を言うかと思えば。
「だって相馬、咲彦くんとか陽之助くんとか名前で呼んでるだろ?ずるいと思うんだ俺は。」
「ずるいって野村…。」
「ほら!親友なんだから名前で呼んでくれ!」
また、おかしなことが始まってしまった。
だが、こんなことに必死になる野村に思わず笑みがもれてしまう。
俺は呼び方がそれほど重要だとは思わない。
それで親密さが計れるとも。
だが…。
「…俺が呼び捨てで呼ぶのはお前だけだ。お前だってそうだろう。それじゃ駄目なのか?」
野村が望むならそうしてやるのも悪くない、とは思う。
けれどこの男は多分、俺がどれだけ心を許しているか知らないだろう。
呼び捨てで呼び、他人行儀は一切なく本音を言い合う。
声を荒げるし喧嘩もする。
…全てが俺にとっては初めてで特別なことなのに。
「…あれ?本当だ。」
少し考えこんで、今までを振り返ったのか野村は瞳を瞬かせた。
そしてあっけらかんと笑顔を見せた。
「何だ、そっか!あー良かった!」
「納得したか?」
「ああ!俺たちはやっぱり最高の親友だよな!」
…呼び方一つで何が変わる。
だが呼び方も含め俺にはお前が全て特別なのも確かなことだから。
「ああ…そうだな。」
恥ずかしいはずの肯定はさらりと口から出た。