花柳 野倫


野村さんが新選組に入隊してからというもの。
私はこっそりと野村さんが巡察に出る時間と場所を調べて、こうやって物陰から野村さんを眺めるようになった。

もちろん、堂々と屯所へ遊びに行っても良いのだけど、そんなに頻繁に顔を出すわけにもいかないし。
…今まで当たり前に毎日顔を合わせていたからだろうか。
ほんの一日、野村さんを見ないだけで落ち着かなくなるのだ。

その結果、こんな行動に出てしまった。
ただ一目、元気な姿の野村さんを見たい。
仕事の邪魔はしたくはないからこうして今日も隠れているけれど。


…それでも。
「…っ!」
ああ、今日もまた。

こんなに気配を殺しているのに。
普通なら絶対に気付かれない場所にいるはずなのに。
それなのに。

野村さんは必ず私を見つけてしまうのだ。
そして視線を合わせて、にっこりと笑い掛けてくれる。


それだけ、だけど。

それだけの事がどうしようもなく嬉しくて。
幸せな、気分になってしまうのだ。


















始めは、ただの偶然だった。

巡察中はやっぱりいつ襲われるかも知れないから周りに気を張っているわけで。
そんな時にふと視線を感じたからそっちに顔を向けただけ。

そうしたら倫ちゃんがいた。
物陰に隠れているし仕事中なのかな、と思って声を掛けることはしなかったけど。
目が合ったから、笑いかけた。

倫ちゃんも微笑んでくれたから嬉しくなった。


それから、巡察の度により一層辺りを気にするようになった。
不逞浪士を探すよりずっと神経使って、あの子の姿を探している。
前回は偶然居ただけかもしれないのに。
その偶然を、俺はもう一度求めていた。

新選組に入ってからはなかなか花柳館に顔を出せなくて、倫ちゃんとも会っていなかったから。
会いたい。
もう一度、元気な姿を見たいな。
あの笑顔を見たい。


また、視線を感じて振り返る。
ああ、やっぱり倫ちゃんだ。
その姿を見れたことが嬉しくて俺は自然と笑顔を浮かべていた。
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