花柳 野倫
野村さんの中で私はどんな位置にいるのだろう。
そんな事がどうしようもなく気になるのは、きっと。
「なあ相馬、相馬!」
「野村…一度呼べば聞こえる。」
「そうか?それよりさー」
野村さんと相馬さんが何だか楽しそうに話している。
…あ、相馬さんは少しうんざりしてるかも。
けれど、それでも相馬さんがうらやましい。
…きっと野村さんは、私がこんな風に思っているなんて知りもしないだろう。
むしろ知られない方が良いのだけど。
それでも。
…それでもこんなに気になっているのは私だけなのだと思うと、少し悔しい。
「ねえ倫ちゃんも一緒に出掛けない?」
不意に野村さんに声をかけられて…だからこそふと口にしてしまった。
「相馬さんもですか?」
「え、嫌?」
驚いたような表情を浮かべる野村さんに、私は今更ながら後悔した。
これじゃあ、ただの嫌な女みたいだ。
相馬さんを嫌いなはずはないし、どちらかと言えば私がおまけで声を掛けてもらっているのだろうから。
「ぜ、全然嫌じゃないですよ!」
だから慌ててそう否定したのだけど。
野村さんは何だか複雑な表情を浮かべている。
「あの…野村さん?」
何て言葉をかけたら良いのかよく分からない。
もしかして私に幻滅してしまった?
迷っていると隣で笑う気配がした。
見ると珍しく相馬さんが笑っている。
しかも何だか楽しそう。
「野村。」
「何?相馬。」
「俺は用事を思い出したから、二人で出掛けてきてくれ。」
そう言うと相馬さんはくるりと背を向け歩きだしてしまう。
「ちょ、相馬待てっ!そんな事したら…!」
「二人きりだと緊張して上手く話せないからと言って、俺を挟むのはもう止めた方が良い。」
…え、相馬さん何を言って?
「あー!何ばらしてんだよ!」
え、え?
遠ざかっていく相馬さんに野村さんが文句を言っている。
けれどそれさえ聞こえないくらい心臓の音が大きくなっている。
顔が、体が熱い。
…野村さん、私は自惚れてしまっても良いのでしょうか?
「あー…えーとさ。」
ようやく、私に向き直って。
「えーと、そういう訳なんだけど…二人で出掛けない?」
手を差し出される。
野村さん、顔が赤い。
野村さんの中の私の位置が伝わってきたようで。
嬉しくて、迷わずその手を取った。