花柳 野倫


「野村さん、最近稽古熱心ですね。」
ある日道場で稽古を終えると、相手をしてくれていた倫ちゃんがふと言った。
「え?」
「以前は私が誘っても断られることが多かったので、何かあったのかと思って。」
あー、そうだった。
昔の俺もったいないことしてたよなあ。

…けど今だって、別に稽古が好きになったわけじゃない。
昼寝の方が良い。
そんな俺がどうしてここまで道場に出てくるのかなんて、君は深く考えてもくれないんだろうな。
「まあ、大きな気持ちの変化かな?」
すごく不純な、ね。
と流石に口には出せずに心の中で呟いておく。

それでも君は感心したように笑顔を向けてくるから。
一人だけ必死のような自分に苦笑が浮かんでしまう。
俺もなかなか報われないな。

…いっそ、言ってやろうか。
一体どんな顔をするのだろう。
怒るかな。
呆れるかな。
それとも、笑われるだろうか。
「そうなのですか。でも、私は野村さんが一緒に稽古してくれて嬉しいです。」
それって相手探しに困らないからとか?
ああ、でも良いか。
今はそれでも。
君がそう言って笑ってくれるのだから。


君と一緒にいたいからなんだよ、なんて。
「そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。」

本当の気持ちはまだ、言ってやらない。
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