花柳 野倫

俺は今まで近藤局長と土方副長の為に剣を振るい、ついに蝦夷までやってきた。
俺にはそれが本望だったけれど。
今日だけはそんな俺についてここまで共に戦ってくれたあの子のために。


三月二十五日。
敵甲鉄鑑の船の上。
刀相手なら一向に負ける気なんかしないけど。
ガトリング砲、だなんて反則だろ。
…相馬と倫ちゃんはもう回天に戻ったよな?
「野村!お前も早く!」
相馬が叫ぶ、声が聞こえる。

けど、ごめんな。
「野村さん!」
いつもはあまり感情を表に出さず、声だって張り上げないあの子が必死に俺の名を呼んでくれている。
ああ、嬉しいな。
泣かせてしまっているくせに不謹慎だけど。
離れゆく回天と、倫ちゃんを見ながら俺は笑顔を浮かべていた。
「の、むらさん…!」
自分勝手でごめんね。
そして、ありがとう。
死ぬつもりはないけれど、その覚悟だけはずっとしてきたから。
今の俺に迷いはない。



…最期に君の姿をこの目に焼き付けられて、良かった。
君を想って逝けるんだから俺は幸せだ。

だからせめて。
最期は前を向いて。

笑顔で果ててみせよう。
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