幕恋 大鈴


「大石さん?!」
屯所ですれ違った桜庭は俺を見てぎょっとしたように声をあげた。
「…何。」
「何じゃありませんよ!腕から血が出てます!」
言われて自分の腕に視線を移すと確かに。
ざっくり着物も斬れてて血が流れている。
さっきからやけに周りの視線を感じると思っていたのは、このせいか。
「どうして平然としてられるんですか、痛くないんですか?」
「ああ、まあ別に。」
「そうだとしても、見てる方が痛いですよ。手当てしますから来て下さい!」
このままでも構わないのに。
なんて言ったら小言が返ってきそうだから、強引に手をひく桜庭を振り払うことはしなかった。

「…お前、手当てが下手だね。」
大人しく手当てを受けてみれば、その手つきは全く素人だった。
「慣れてないんだから仕方ないじゃないですか。」
傷口を見ては本人より辛そうな表情を浮かべ、手当て中はおぼつかないながら真剣で。
俺がどんな顔をしているかなんて、見る余裕はないんだろうな。
「じゃあ今度、山崎さんに習っておきます。」
「へえ。」
「あ、だからって大石さんは怪我しないようにして下さいよ?医術は身につけて損になりませんけど、傷を増やしたって良いことないんですから。」
…そうかな。
死なない程度の傷ならまた、作ってみても良いような気がしてきた。
「大石さん?」
返事のないことに気づいて、やっと桜庭が顔を上げる。
「どうして笑ってるんですか!」
「別に。」
「もう…。本当に、怪我しないように気をつけて下さいね?」

まあ、心配されるのも悪くはないな。
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