幕恋 大鈴


非番の日になると、あの人はふらりと一人で出掛ける。
それは別におかしいことではない、のだけれど。
陽も沈みかけてから出かけて暗くなってから戻ってくる。
その時に、血の匂いをさせているから。


「あ、大石さん…。」
屯所の入り口で、闇と同化しかけた彼を見つけて私はほっと息をついた。
大石さんは機嫌が良さそうだったけれど、私を見つけて顔をしかめる。
「お前さあ…。」
あ、珍しい。
こうして私がここで待っているのは初めてではない。
そしてそのほとんどの場合は、私の存在などまるでないかのように無視されてしまっていたのだけど。
今日、声をかけてきたということはそれだけ楽しいことが、あったのだろう。

「いつもこうしてるけど、そんなに暇なわけ?」
「別に、暇というわけではないですけど、大石さん。」
何をしているのかは、容易に想像がつく。
それは彼の独断かもしれないし、もしかしたらお仕事なのかもしれないから。
私には何も言えない、けれども。

「お帰りなさい、大石さん。」
それでもここに、あなたの帰りを待っている人間がいるのだと知ってほしくて。
ただ一言伝えたくて、私はここにいるのだ。
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