幕恋 芹鈴


いつからだっただろう。
あの小娘が俺をまっすぐ見るようになったのは。
新選組の中でただ一人。
嘘も駆け引きもなく向かってくる存在を疎ましく思わなくなったのは。


「芹沢さん。今日はとてもおいしいお茶をいただいたんです。」
酒を断って数日。
桜庭が酒以外のものを運んでくるようになってからはだいぶ経つ。
「良く冷えているんですけど飲みませんか?」
何度無視をしても、酒を持って来いと怒鳴っても桜庭は俺の元に通うのを止めない。
…けれどもう、これ以上気を張る必要はないのかもしれない。
どうせ俺の命は長くはないのだ。
ならば最期くらい、何の裏もなく寄越す好意を受け取ってやろう。

俺は無言で手を差し出す。
「え…!」
「何だ。」
「いえ、だって!飲んでくれるんですか?」
今までことごとく断っていたのだから、この反応は当然かもしれないが。
「気が変わらねえうちにさっさと寄越せ。」
「は、はい!」
どうぞ!と渡された茶を受け取るときに、ふと桜庭を見た。
たったこれだけのことに屈託ない笑顔を浮かべている。
あまりにもまっすぐな存在に、毒されてしまう。

もうすぐ死ぬことが惜しい気さえした。
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