幕恋 芹鈴
近藤さんと屯所内でかくれんぼをすることになった。
私が勝ったらこの後甘味をおごってくれるという言葉に乗ってしまった私は、隠れる場所を探している最中。
「うーん、どこが良いかな。」
甘味がかかっているから真剣にもなる。
ふと通った芹沢さんの部屋の前で立ち止まる。
…芹沢さん、確か今日は夜まで出かけているはず。
少しの間だけならいいよね。
もう何度も部屋には入っているから、あまり抵抗もなくそこに隠れることにした。
部屋の中には布団がひきっぱなしにされていた。
近藤さんが探してる気配もないし、気になったので畳んで部屋の端に重ねておく。
すとんとその横に座る。
「あ…。」
芹沢さんの、匂いがする。
芹沢さんが寝ている布団なのだから当たり前なんだけど、何だか嬉しくなってしまって。
布団に体を預けた。
「…何をしている。」
「…っ?!」
近くで聞こえた低い声に驚いて飛び起きる。
「せ、芹沢さんっ…。今日は帰りが遅いんじゃ…。」
呆れ顔をしている芹沢さんが襖を閉めてずかずかと部屋に入ってきた。
わああ…怒られ、る!
とにかく謝ろうと口を開こうとすると。
「布団で待つなんて、誘ってるのか?」
それより先にくっと笑ってそう言われた。
「違いますよ!」
とっさに否定したけれど…芹沢さん、何だか機嫌が良いのかな。
怒ってはいない?
ひとまず誤解を解こうと、謝罪と一緒にここにいる経緯を説明する。
「ふん…。」
「勝手に入って、本当にすみません。」
芹沢さんは一瞬考えてから、どかりと座って手に持っていた酒瓶を私に向けた。
「酒に付き合え。」
「え…でも私、甘味処に。」
「襲われたいか。」
「お酌させて下さい。」
私なんてそんな対象に見られていないことは知っていたけど。
結局、私が勝手に部屋に入ってしまったのが悪いんだし。
甘味処に行けないのは残念だけど。
でもこうして芹沢さんと二人でいられるなら、甘味と引き換えも悪くない。
遠くで近藤さんの声が聞こえたけど、私は黙って芹沢さんにお酒を差し出した。