幕恋 その他


「お久しぶりです、松本先生。」

日に日に、幕府側の旗色は悪くなっている。
医者である俺から見てもそれは明らかで。
今回、新選組に与えられた甲陽鎮無の任まで失敗した…というのに。
「ああ、元気そうだな。鈴花。」
「はい。それが取り柄ですからね!」
目の前の少女は、しっかりした眼差しでまっすぐ前を見つめ続けている。
出会った日と、同じように。
いや…むしろ一層強く。
凛と立つその姿。

「だがお前、傷が増えたなあ。女なんだからもう少し体を大事にしろよ。」
細く小さな体。
無数の傷をつけたそれが痛々しい。
一体どれほどの戦いを繰り返してきたのかなんて俺には想像もつかなかった。
「松本先生も、やっぱりこんな傷だらけの女は嫌ですか?」
「俺は、お前の傷は戦ってきた勲章だと知ってるから気にならねえがよ。」
「じゃあ良いです。分かってくれる人がいてくれるなら、それで。」
鈴花は小さく微笑んだ。
…ああ、なぜお前は。

「鈴花。…お前はこれからも戦い続けるのか?」
なぜ剣をとる。
傷だらけになって、辛い思いをしてまでなぜ戦い続ける。
…そんなものは全て、愚問でしかないのは分かっているけれど。
「もちろんです。私は、新選組の隊士ですから。」
「頼もしい女だな。」

それがお前の誇りなのだから。
だから口には出せない。
いっそ怪我してしまえ、病気になっちまえ。
そうしたらお前をずっと傍に置いとける。
それ以上傷を増やすのを見なくてすむ。
お前が望まないにしてももう二度と戦場になど送り出さないのに。

…なんて、医者らしからぬことを考える俺をお前は笑うだろうか。
それとも馬鹿にするなと怒るだろうか。
…お前をつなぎ止められないならせめて。

どうか、無事であるように。
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