幕恋 大鈴


大石さんと巡察中に敵の浪士に囲まれてしまった。
大石さんがどんどん人を斬っていく中、私は油断してしまい浪士の一人に捕まる。
…ああこれはまずい。
「離して!止めて下さい、死にますよ…!」
「馬鹿か!死ぬのは貴様らだ!」
「…ええ、私は死にます。」
この状況で大石さんが私を助けてくれるとは思えない。
むしろ邪魔だと一緒に斬られるだろう。
だから無駄な駆け引きなどしないで、私を掴むこの浪士に一目散に逃げて欲しかった。
「仲間を助けてほしければ刀を捨てろ!」
私に刀を突きつけて浪士は叫んだ。
けれど返ってきたのは大石さんの冷たい眼差し。
いつの間にか浪士の大半は地面に転がっている。
「…勝手にすれば?」
ため息をついて、思った通りの返事が紡がれた。
「な、仲間を見殺しにする気か?!」
「俺に仲間はいないし、必要ないね。」
敵さえいればいい、大石さんは笑う。
「せっかくいい気分だったのにお前のせいで台無しだよ。ついでだし一緒に斬ってやろうか。」
全く容赦のない殺気が浴びせられる。
それは発せられた言葉が真実だと告げていて、浪士は私を突き飛ばして逃げ出した。
…けれどもそれさえ見越したように私の真横で刀が振るわれる。
ばたりと倒れる浪士を見てから大石さんに視線を移す。
「…どうして。」
「ここでお前を殺してもつまらないからねえ。もっと強くなって、ちゃんと斬り合いをしようじゃないか。」
どこまでも、どこまでも。
敵を求める大石さんは楽しそうだった。
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