幕恋 土鈴


いつまでも一緒にいたい、という気持ちが。
最期まで一緒にいたい、に変わったのはいつからだっただろう。

「土方さん。こんなところで何をしてるんですか?」
奉行所の中を探しても見つからなかったその人は、五稜郭の土塁をゆっくり歩いていた。
ここに登るとつい先日まで真っ白だった景色も色づいているのが良く分かる。
「桜庭か…気晴らしに散歩をな。」
土方さんは僅かに笑う。
「お前こそここで何を?」
「あ、榎本さんが呼んでいましたよ。」
探してきてほしいと頼まれたのでこうして来たのだ。
そうか、と土方さんは呟いたけれどそこから動く気配はない。
「土方さん?」
気になって窺うと、にやりと笑ったように見えた。
そのまま奉行所とは反対方向に歩き始めて、私は慌てて後を追う。
「土方さん!」
「…俺は、榎本さんの部下になったつもりはない。」
さらりと呟かれた言葉はずしり、私の心に響く。
ああ、そうだ。
確かに榎本さんは総裁で、今の幕府軍では一番の立場の人だけど。
私たちは仲間として蝦夷まで共に来ただけ。

「俺の大将は近藤さんただ一人。」
「…そう、ですね。」
本当に、その通りだ。
…だからと言って、榎本さんの呼びつけを無視してしまうのもどうかと思わなくもないけれど。
土方さんの言葉はいつも自分が武士だと、新選組であると信じて疑わない。
そして私は聞くたびにその誇りを喜びを再認識する。
「桜庭?」
足取り軽く土方さんを追いこすと不思議そうに名を呼ばれた。
武士であること。
新選組であること。
土方さんと同じ道を歩いてきたこと、全てが誇らしくて嬉しかった。
「私の大将も近藤さんと、土方さんだけですから!」

同じ夢を追って、同じ道を辿って。
武士として生きる私たちの見ている先は、気持ちはきっと同じ。
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