幕恋 土鈴


「桜庭はどうして、剣で身を立てようと思ったんだ?」

多分、最後の日だった。
明日のことを考えると不安がないわけじゃない。
話したいことや聞きたいことがたくさんあるはずなのに、何も言葉に出来なくてただ二人並んで歩いていた。
「え?」
だから突然の土方さんの言葉に驚いて、思わず隣を見上げる。
「今更、かもしれないが気になっていたんだ。やはり父親の影響なのか?」
確かに今更な話題なのかもしれない。
でも土方さんが知りたいと思ってくれるなら、こうして話が出来るきっかけを与えてくれるならどんなことにだって答えたいと思った。

「剣を始めたのは父上の影響ですけど…。剣の世界で生きたいと思ったのは、ある人たちの勝負を見たからです。」
「誰なんだ?」
「いえ、名前は知らないんですけど…。」
私はそのときの記憶を思い出す。
昔のことで顔も覚えていないし、何より偶然試合をしている姿を見ただけ、なのだけれど。
父上も私もその二人の剣に魅了されてしまった。
いつか彼らのような剣士になりたい、と。
そして出来るなら彼らと共に剣を振るいたいと。
進む道がいつか交わるようにと、願ったほどに。
「ならばその剣士に感謝しないといけないな。桜庭と共に戦えるのは、彼らのおかげなのだから。」
…そう言って笑う土方さんの姿が、ふいにあの日見た剣士の姿と重なった。
背格好。
話し方。
剣の振り方も。
もうずっと昔のことだから記憶が曖昧になっている?
それとも、そうであってほしいと願う私の勘違い?
…だけど、それでも良い。

「ええ、私も感謝しています。今ここにいられることを。」
一体いつから私たちの道が交わっていたのかは、分からないけれど。
あなたと出会い、今ここにいることは決して偶然なんかじゃない。
この先、最期の瞬間まで私たちの道は交わり続けるのだから。
それ以上幸せなことなんて、ない。
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