幕恋 土鈴


新選組の名は京では有名になった。
そして鬼の副長と呼ばれる土方さんの存在も、きっと同じくらい。

「…桜庭さん。何だか最近、隊内荒れてないっすか?」
私は今、屯所の縁側に腰掛けてお茶とお団子をいただいているところ。
隣にはなぜか最近入隊した野村さんが、勝手にお団子をほおばっている。
「副長も迫力増したっていうか。」
「野村さん…。」
あまり話をしたこともない私に、一体何を言いたいのか。
私は食べる手を止めて隣を見やる。
「…今日もまた誰かが切腹したっていうじゃないっすか。」
「そう、みたいですね。」
「桜庭さんは…新選組にいることに迷ったりしないんすか?」
ああ、分かった。
これは一緒に入隊した相馬さんや下手に親しい人には話せないことだ。
まるで最初のころの自分を見ているよう。

信念で人を殺す。
それは理解されないことかもしれない。
でもそれが正しい道を作っていくと。
「私は、信じていますから。」
新選組の目指す先があるのだと言った土方さんの言葉を。
ずっとずっと最初から。
「土方さんは人にも自分にも厳しいけれど、鬼なんかじゃないって野村さんだって分かっているでしょう?」

「…その通りっす!」
野村さんは、勢い良く立ち上がった。
私は野村さんを見上げる。
「俺、自分が情けない。相馬が選んだ人なのに、俺も主だって認めたのに、こんなことで迷って。」
野村さんの表情は晴れやかだった。
「俺だってずっと副長を信じていくっす!」
そしてそう叫びながら、廊下を駆けて行った。
その後ろ姿は、何だかとても頼もしく見えた。
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