幕恋 大鈴
今朝はずいぶん早くに目が覚めてしまったので時間を潰すために屯所内を目的もなく歩いていた。
他の隊士はまだ寝ているようで、すごく静かだった。
ぱたぱた、と突然その静寂を打ち破る足音が聞こえてきた。
聞き覚えがある音だ。
頭に浮かんだ人物がすぐに廊下の突き当たりから顔を出す。
「きゃっ…びっくりした…!」
別に気配を殺して歩いていたわけでもないのに足音の主、桜庭は大げさに驚く。
けれど俺を認識してふわりと笑った。
「大石さん、早いんですね。」
「ああ、まあね。」
こいつは俺を見つける度に近寄ってきてどうでもいい世間話をしていく。
追い払っても懲りないから苦手だ。
いくら暇を持て余していようが、またここで世間話などされたくはない。
早々に場を離れようとした、が。
「あ!」
と言う桜庭の声の方が僅かに早かった。
「明けましておめでとうございます、大石さん。」「は?」
いつものようにつまらない話が始まるのかと思っていたから意外だった。
「は?じゃないですよ。新年ですもん、挨拶くらいしますよ。」
ああ、そういえば今日は一月一日だったっけ。
「…へえ。」
今日が何の日だろうと気にしたことはなかったけど、新年の挨拶なんて久しぶりに聞いたせいだろうか。
「何か良いなあ。もう一回言ってよ。」
桜庭はくっと笑みを浮かべた俺を不思議そうに見返してきた。
「何でですか?」
「聞きたいからに決まってるだろう。」
「良く分かりませんけど…だったらせめて、大石さんも先に私に挨拶返して下さいよ!」
真っ当すぎる台詞が何だかとても面白い。
こいつはそういう礼儀をきちんと教えられて育ったのだろう。
「はいはいおめでとう。…これで良い?」
ずいぶん投げやりだったのがいけなかったのか桜庭は納得出来ないと言うような表情を浮かべた。
「もう良いです!私、今から近藤さんと土方さんに挨拶に行くので失礼します。」
年が明けたら真っ先に上司に挨拶だなんて、律儀なやつ。
そう思って、一つの仮定が浮かぶ。
横を通り抜けて行こうとする桜庭の腕をとっさに掴んだ。「ねえ、まだ近藤さん達に挨拶してないんだろう?」
「そうですけど…?」
訝しみながらも、やっぱり律儀に桜庭は返事をした。
「じゃあ今年最初に話をしたのは俺なわけ?」
「えっと、そうなりますね…。」
「ふーん。」
その答えを聞いて俺はぱっと手を離した。
「どうしたんですか?」
珍しい行動に桜庭は戸惑ったように尋ねた。
「さあね。」
自分にだって分かるものか。
ただ、年が暮れようが明けようが気にするものでもないけれど。
ほんの少し気にしてみてなぜか優越を感じた。
それだけの、事。
他の隊士はまだ寝ているようで、すごく静かだった。
ぱたぱた、と突然その静寂を打ち破る足音が聞こえてきた。
聞き覚えがある音だ。
頭に浮かんだ人物がすぐに廊下の突き当たりから顔を出す。
「きゃっ…びっくりした…!」
別に気配を殺して歩いていたわけでもないのに足音の主、桜庭は大げさに驚く。
けれど俺を認識してふわりと笑った。
「大石さん、早いんですね。」
「ああ、まあね。」
こいつは俺を見つける度に近寄ってきてどうでもいい世間話をしていく。
追い払っても懲りないから苦手だ。
いくら暇を持て余していようが、またここで世間話などされたくはない。
早々に場を離れようとした、が。
「あ!」
と言う桜庭の声の方が僅かに早かった。
「明けましておめでとうございます、大石さん。」「は?」
いつものようにつまらない話が始まるのかと思っていたから意外だった。
「は?じゃないですよ。新年ですもん、挨拶くらいしますよ。」
ああ、そういえば今日は一月一日だったっけ。
「…へえ。」
今日が何の日だろうと気にしたことはなかったけど、新年の挨拶なんて久しぶりに聞いたせいだろうか。
「何か良いなあ。もう一回言ってよ。」
桜庭はくっと笑みを浮かべた俺を不思議そうに見返してきた。
「何でですか?」
「聞きたいからに決まってるだろう。」
「良く分かりませんけど…だったらせめて、大石さんも先に私に挨拶返して下さいよ!」
真っ当すぎる台詞が何だかとても面白い。
こいつはそういう礼儀をきちんと教えられて育ったのだろう。
「はいはいおめでとう。…これで良い?」
ずいぶん投げやりだったのがいけなかったのか桜庭は納得出来ないと言うような表情を浮かべた。
「もう良いです!私、今から近藤さんと土方さんに挨拶に行くので失礼します。」
年が明けたら真っ先に上司に挨拶だなんて、律儀なやつ。
そう思って、一つの仮定が浮かぶ。
横を通り抜けて行こうとする桜庭の腕をとっさに掴んだ。「ねえ、まだ近藤さん達に挨拶してないんだろう?」
「そうですけど…?」
訝しみながらも、やっぱり律儀に桜庭は返事をした。
「じゃあ今年最初に話をしたのは俺なわけ?」
「えっと、そうなりますね…。」
「ふーん。」
その答えを聞いて俺はぱっと手を離した。
「どうしたんですか?」
珍しい行動に桜庭は戸惑ったように尋ねた。
「さあね。」
自分にだって分かるものか。
ただ、年が暮れようが明けようが気にするものでもないけれど。
ほんの少し気にしてみてなぜか優越を感じた。
それだけの、事。