幕恋 大鈴

「才谷さんに聞いたんだけど、異国じゃ今日は嘘をついても許されるんだってさ。」
「…そうなんですか。」

大石さんの話には脈絡がない。
私と世間話をする気になったとは思えないけど、巡察中だというこの時に言ってくるような事だろうか。
そもそも異国どころか日本の行事にも関心なさそうなのに、大石さんは何だか楽しそうだし。
ちらりと横目で様子を窺う。

「ええと、それで…?」
「俺さあ、お前の事結構好きなんだよねえ。」
「は?!」

脈絡がない、どころの話じゃなかった。
無視するのは悪いかなと思って話に乗るんじゃなかった。
驚く私を見て、くっといつものように笑ってる大石さんの意図が全く読めない。
というより今の言葉は本当なのか冗談なのかいきなりの事にびっくりしすぎて頭が働かない。
否応なく顔が熱くなってしまう。

「な、何を言ってるんですか!からかわないで下さい。」
「へえ、嘘だと思うのか」
「だってそれは…!」
慌ててしまった私も私。

その反応を見て笑う大石さんに、あえて異国の話を振ってきた意味だけは分かった気がした。
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