S◇ その他
「見張りお疲れさまです。」
みんながいる屋敷から少し離れた場所で周りを警戒していたら、成重さんがやってきた。
「どうぞ。羅貫くんが作った夕食です。」
そうして湯気のたつ器を差し出される。
わざわざ、持ってきてくれたのか。
「…どうも。」
具がたくさん入ったスープのようだ。
せっかくなので温かいうちにと一口飲んで、思わず眉をしかめてしまう。
「どうか、しました?」
「どうっていうか、これちょっと辛くないか?」
味は文句なしにうまい。
だが舌に感じる刺激は相当だった。
「え?」
成重さんはきょとんと驚いた顔をしてから、ふと笑う。
「兄弟って味覚も似るんでしょうか。灯二も辛いものが苦手みたいで。」
なので灯二と、秋市たちには辛さを控えて出したのだと成重さんは言う。
でもまさか俺までがそうだとは思わなかったので、みんなと同じ辛さのものを持ってきたそうだ。
「…ていうか。笑いすぎ。」
説明の途中から堪えていたらしい笑いが、今はもう堪えきれてない。
我慢しようとしているらしいが肩が揺れていた。
「ふ、ふふっ…すみません。」
「まあどうせ、情けない男だよ俺は。」
「そんなこと思っていませんよ。」
成重さんは笑いを抑えきれないまま、それでも眼差しは優しげで。
だからバカにされている風には感じなかった。
けれど。
「だだ見た目によらず可愛いなあって。」
「はあ?!」
…いやまさか、同性の。
しかも自分よりよっぽど可愛いというか美人にそんなことを言われる日がくるとは。
「ふふ。」
成重さんがあんまり綺麗に笑うから。
ああ何か、いっそバカにされた方がましかも。
顔が熱くなるのを感じた俺は、辛さも気にせずスープを飲みほすしか出来なかった。