S◇ 主灯
※もし兄弟が離ればなれになっていなかったら…というパラレル
俺たち兄弟は数字の子としてずっと、隔離されるように二人で暮らしていた。
ちっぽけな世界。
それでも俺は灯二がいるだけで満足だった。
でもなぜ俺が、そして灯二が数字の子なのか。
ずっとずっと灯二に言えないまま…いつも健気でまっすぐな弟を見るとわき上がる罪悪感は限界で。
俺は、覚悟を決めた。
「灯二。」
意を決して名を呼べば、いつものように何?と無邪気に声が返ってくる。
これから、それを失うのかと思うと言葉が詰まった。
「一灯?」
「灯二…。あのな、俺のでこに傷があるんだけどよ。」
その手を自らの額に当てて確認させる。
一旦手を離して、俺は閉じてあった傷をナイフで切った。
「一灯?なにしてるの?」
「――これ。」
再び額に手をやる。
そこには傷の代わりに、もう一つの目。
驚いているんだろう手がびくりと震えた。
「きっと俺のせいなんだ。灯二の目を俺がもらっちまった。」
だからお前まで数字の子になってしまった。
ごめんな、かすれた声しか出ない。
「そうなんだ。」
「…。」
「…。」
「…えっ、それだけか?!」
「えっ、だめ?」
何を言われても仕方ないと思っていたのに、一言で灯二は終わる気らしい。
「何かないのかよ!恨みつらみとか、お前をずっと騙してたようなものだろ…!」
「べつにないよ。」
灯二ははっきりと言った。
「一灯が三つ目じゃなくてもおれの目は見えなかったかもしれないし。おれが三つ目になってたかもしれない。おれの目が見えてたら一灯といられなかったかもしれないと思うと、おれは今のままで満足なんだ。」
ああお前は何てやつだ。
「目が見えなくても一灯がいる方がいい。」
俺の苦しみを綺麗に消し去ってくれただけじゃない。
こんなにも、こんなにも心が暖かい。
全てを知ってなお、自分と同じ気持ちでいてくれる灯二がただ愛しかった。
「じゃあこれからもずっと傍にいる。一緒にいる。」
お前の一番近くで、お前を守り続けよう。
それは俺の願いそのものだったけれど。
うん、といつもと変わらない笑顔で灯二が頷いてくれたから。
俺の小さな世界で。
――お前こそ、その全て。
溢れる思いを堪えられなくて俺は灯二を抱きしめた。