S◇ 主灯
いつものように空き家を借りて、一晩過ごそうとしていたら。
その家には酒が置いてあった。
かくして、俺と宮と閧志の三人でささやかな酒宴が始まったのだった。
「うん、うまいな。」
昔は果ての地の屋敷にも酒はあったのだが、俺たちが飲みほしてしまったので今回とても久しぶりな酒だ。
途中から隣に灯二も座り、かなりの早さで酒を飲み続けている。
…というか、ずっと無言だし大丈夫かこいつ。
心配になって顔をのぞき込もうとするより一瞬早く、灯二の体がぐらりと揺れた。
そしてそのまま俺の肩にもたれかかる。
「おい、灯二…?」
見ると、完全に寝ているようだった。
「酔いつぶれたのか。」
「らしい。」
肩から感じる体温はいつもより高くて。
心地良くて離せなくなる。
「じゃあ、俺ももう寝るわ。」
「せっかくの酒なのに、良いのか?」
「ああ。」
ぐっすりと眠っている灯二を抱いて立ち上がると、宮が笑いをこらえるように口に手を当てていた。
「知ってるか?そういうの、ブラコンって言うらしいぜ。」
「そういうの?」
って、どういうのだよ。
「そう。お前ら二人とも相当だ。」
しかし楽しそうに笑うばかりで説明してくれる気はなさそうだ。
気になるが追求しても無駄だろうからそれ以上聞くのを諦めて。
「おやすみ。」
灯二を腕に抱え、寝床に向かう。
無防備な寝顔に、暖かなぬくもりに。
知らず笑みが浮かぶ。
ああ本当に、お前という存在に俺は弱いらしい。
酒なんかよりずっと強く、俺を酔わせるのだ。