S◇ 主灯



何も見えない。
「一灯?」
どこにいるのか分からなくて思わず名前を呼ぶ。
「ん?」
すぐ近くで声がしたことに安心しながら、手探りで一灯の服を掴んだ。

「どうした、灯二。」
「…こわい。」
口に出してやっと、自分がそう思っていたことに気づく。
どうしたんだろう。
何でなんだろう。
「前はまっくらでも何ともなかったのに。今は、何も見えないのがこわいんだ。」
「…ばか。それで良いんだ。それが普通だ。」
そう、なのかな。

…昔は、数字の名前を与えられて誰にも気にかけてもらえなくて。
まっくらな世界に一人きりだった。
でも今は違う。
みんながいる。
一灯がいる。
あたたかさを知った。
ひかりを、知ったから。
だからこわいんだ。
こわくて、良いんだ。

「じゃあ、お前の目が見えるようになるまでこうしててやるよ。」
そう言って握ってくれた一灯の手はあたたかくて、おれはやっと安心出来たんだ。
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