S◇ 宮白


「…なんだよ。」
「別にぃ?」
僕がじろりと睨んでも、目の前の男はにやにやと端正な顔に意地悪そうな笑顔を浮かべるだけ。

「…だから何なんだよ!用がないならこっち見るな!」
何にも言わないくせに、ただ見られているのは居心地が悪い。
文句を言えば、何が面白いのか目を細めてくつくつ笑う。
「おい…!」
「今日の食事、僕ちゃんが作ったんだって?」

突然まともに話しかけられたせいで、え?と首を傾げるはめに。
確かに今日の食事を作るのは手伝わされたけど。
「会ったばっかのときは料理なんて出来なかったのになあ。」
なんだよ、僕をバカにしにきたのかこいつ?
「結構上手く作れるんじゃん?」

バカにするならまた文句でも言ってやろうと思ったのに、発せられた言葉は予想もしていないものだった。

「べっ、別に全部僕が作ったわけじゃないし…!」
褒められた、のだと理解してとっさに言い訳が口をついた。
すると、ぽんと頭に手が乗せられる。
「こういうときは大人しく褒められてりゃ良いんだよ。」
「は、…?」
ぽんぽん、とまるで子供にするように頭を撫でられる。
…その手が、考えていたよりもずっと優しくて。
あたたかくて。
「お、僕ちゃん髪の毛柔らかいな。触り心地良い。」
今度は優しい手が、さらりと髪の毛を掬った。

あ…こいつ指、細くて綺麗だなあ。
髪の毛に触れられた文句を言うことも忘れて、僕は自分の髪を絡めるすらっと長い指に見とれてしまった。
だっていつもは意地悪ばかりなくせに。
なのにこんなに綺麗な指でこんなに優しく僕に触れるから。

ふ、と指から奴の顔に視線を移す。
「…っ。」
ああ何で。
いつもみたいな意地悪な顔じゃなく、そんな顔してるんだよ。
触れてくる手と同じ、優しさ。

急に顔に熱が集まるのを感じた。
「ん?僕ちゃん、顔赤いぜ。熱でもあんの?」
それに気づいたらしい奴は、何事もなかったように普段の表情に戻してにやりと笑った。
ぜ、絶対何でなのか気づいてるくせに!
やっぱり意地悪な男だ!

「ずるいぞ!」
「何が?」
「うるさい、もう減るから髪触るなよ!」
にやにや、意地悪な笑顔のくせに。
さらりと驚くくらい優しく僕の髪を掬う。
「触るなって!」
そう言いながら、縫いつけられたように体は動かない。
優しく触れるその手が、悔しいけれど心地ちよくて。
この男は全部分かっているんだろう。
それがまた悔しくて。
「…減る!」
無駄と知りつつ言ってみる。

「減らねえよ。むしろ増えるんじゃね?だからもう少し可愛くしてな。」
増える?
増えるって何が?

この状態を続けて増えそうなのは、僕の心拍数くらいなものなんだけど!
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