S◇ 主灯
カズヒたちと合流して一晩。
今日は空屋敷でゆっくり過ごすことになった。
「桜ってやっぱ綺麗だな、灯二。」
おれはカズヒに誘われて屋敷の回りを見回りがてら散歩している。
ゆっくり歩いていたカズヒがふと足を止めて頭上を見上げる。
おれもつられて桜色の花を見上げた。
視界一面の花びら、確かにキレイだよなあ。
いくら見てても飽きないくらい。
でも、おれはどちらかといえば…。
「でも俺は夜の桜の方が好きかな。」
おどろいて、思わずカズヒを見た。
カズヒはにこにこと笑って嬉しそうに桜を見ている。
ああ、おんなじ事考えてたんだ。
「ん?どうした。」
ぱっと優しい視線を向けられて慌てて顔を逸らした。
「な、何でもない。」
…たった、こんな小さなことで。
どうしようもなく嬉しくて、表情が緩むのが止められないんだ。
「灯二?」
「えっ、と…青空に咲く桜もキレイだってラカンが言ってた。」
「そうか、そりゃあ楽しみだな。」
やっぱりにこにこ笑ってカズヒは言った。
「その時は一緒に見ような、灯二!」
笑って、当たり前のように約束してくれる。
それだけでどうしてこんなにも幸せな気分になるんだろう。
「う、うん!」
大きく頷くとことさら嬉しそうに笑ってくれた。
ざあっ、と。
その時強い風がふいて花びらが一斉に舞った。
「わっ…!」
「おー、すごいな。」
桜色の花は、世界を覆い尽くすんじゃないかってくらい軽やかに、そして鮮やかに宙を舞う。
「あー、こういうの何て言うんだっけ?」
「えーと…。」
確かおれもこの間ラカンに聞いた気がする。
『花吹雪。』
ちょうど良くはもった声に、おれたちは顔を見合わせて笑ってしまった。
ああ、だったらこれも花吹雪って言うのかな。
色鮮やかに心の中に吹き荒れてぬりかえられていく。
急速に傾いていく、カズヒへの想いを。