S◇ その他
『おれのことは好きか?』
あの人は尋ねて笑った。
その日以来、葎可さまが姿を見せることはなかった。
いつも、来てくれていたのに。
毎日待っているのに。
…実験の為にと飲んでくれた薬の効果の是非など関係なく、ただ会いたかった。
会いたくて、声が聞きたくて。
募っていく感情に突然気がついた。
俺は今まで金隷さまに認められたくて…金隷さましか見えていなかった。
ただ自分が生きているという証が、居場所が欲しかったんだ。
『夜明。』
穏やかな声で、包み込むような優しい眼差しで。
あの人はいつも俺の傍にいてくれた。
俺の名を呼ぶたび、居場所を与えてくれていたのに。
いつも一番近くにいてくれた人の気持ちに気づくことも出来なかった、なんて。
離れてからじゃないと自分の気持ちにすら気づけないなんて。
「葎可、さま…。」
会いたい。
姿が見たい。
声が、聞きたい。
今ならあの時の問いかけに、気持ちを込めて好きだと答えられるのに。
――お願いします。
また早く俺の前に現れて、微笑んで下さい。
そしてまた。
俺の名前を、呼んで下さい。