幕恋 大鈴

最近、大石さんと話すことが多くなった。


「剣で身を立てるって事は、人を殺して生きるって事だろう。」
「…違いますよ。」

殆どこんな風に、私の答えづらい事ばかり言ってくるのだけど。
わざとそんな言葉を選んでいるような気がしながらも、私は何て説明しようかと頭を巡らせる。

すると隣でくっ、と笑う声がした。
「えと…私何かおかしかったですか?」
「いいや、別に。」
別にって言う割にはいまだに口元が笑っている。
「あんたの、その顔良いよねえ。」
「…?」
「悩んだり苦痛に歪む表情、好きだよ。」
「…は?!」

大石さんは相変わらず笑ったまま、さらりと言った。
「今度戦おうよ。あんたを斬りたい。」
「そんなの嫌ですよ!」
気に入られたのは嬉しいけど、素直に喜んで良いのかどうか。
しかも斬りたいとか言われちゃうなんて…大石さんの突拍子もない発言には慣れたつもりでいたけど、流石に予想出来なかったな。

無意識にもまた悩んでる表情を浮かべてしまったのか、大石さんは楽しそうに笑う。「じゃああんたが死ぬ時は、俺が殺してあげる。死ぬ直前はきっと苦痛に満ちた良い顔をするだろうからね。」

その瞬間を想像して私も思わず笑ってしまった。
「…どう、でしょうね?」

決して負け惜しみでそう口にした訳じゃない。
ただ、もし本当にそうなるのなら私は苦痛の表情など浮かべないだろう。

愛しい人の手にかかるのなら。
あなたを目に焼き付けて逝けるのならば。

私は苦痛さえ忘れて、きっと微笑むだろうから。









その顔だ。
その顔、ぞくぞくする。


「大石さん…。」

桜庭が苦しげな表情を浮かべて俺を見つめる。
初めて見る顔だ。
本当に、この女は飽きない。
あんたのその顔を見ながら剣を交えるなんて最高じゃないか。
俺はくっと笑った。

ぎぃん…と、剣がぶつかる。
何度も何度も。
「…?」
…手を抜いてるつもりはないのに、互角だなんておかしくないか。

こいつの剣の腕が上がったのか。

…それとも、俺の剣に躊躇いがあるというのか。


そう考えたら、辛そうな顔をしている桜庭との斬り合いが突然つまらなくなった。
急激に気持ちが冷めていく。
変化していく。


ぞくぞくする、その顔が好きだったはずだ。
そんなこいつと斬り合えて楽しいはずなのに。

ああ、だけど。

「ねえ。」
やっぱり最期くらいは。

「笑ってよ。」
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