戦!セバ ユゼB
「B、この屋敷から逃げたらいいんじゃない?」
いつものごとくユーゼフ様から逃げてデイビッドさんに抱きついていたら、それを見ていたAに言われてしまった。
以前にもちらりと話題になったことがあるし、そんなのオレだってもう数えきれないくらい考えたことだ。
けれどもしどこに逃げたとしても、ユーゼフ様なら簡単に探しだしてしまうんだろうと思ったし、それと同じくらいオレを探しになどこないのだろうとも思う。
相反する思いが、オレに実行する勇気を与えてくれない。
…オレなんてただの暇つぶしで構ってるに過ぎないんだろう。
ここにはセバスチャンやデイビッドさん、魅力的な人はたくさんいるんだからここから去ったオレになどユーゼフ様が興味を持つとは思えない。
でも、ここにはデイビッドさんの癒やしオーラがあるんだからデーデマン家にいた方がまだ安全だ。
使用人を辞めてもし万が一ユーゼフ様が追ってきたらと考えるより。
いつくるかと怯えながら暮らすより全然ましじゃないか。
「ねえB君。」
「…っ?!」
一人そんなことを考えていたら、いつの間にかユーゼフ様が目の前にいた。
驚きすぎたのと、瘴気は出していなかったせいで悲鳴も出せず脱兎と逃げるタイミングも逃してオレは固まる。
「君がここを辞める計画を立てているって聞いたんだけど本当?」
「えっ…?」
今からでもデイビッドさんの元に走ろうと思った矢先、まさかユーゼフ様の口からそんな質問が出るとは思いもよらず。
瘴気がなくても逃げたい気持ちは変わらないけど、オレは完全に逃げる気を失った。
ユーゼフ様を目の前にして変な汗とか出てくるけど。
でもこの人が見たことないような寂しそうな表情でオレを見るから…。
「…辞めません、よ。」
さらりと言葉がもれた。
「ここは給料がいいし、慣れれば居心地もいいし…ご飯もおいしいし。」
何度も何度も辞めようと、逃げようとしているのに結局実行出来ない。
「そう…良かった。」
ユーゼフ様が安心したようににこりと笑う。
――対峙して変な汗をかこうが、神経すり減るような思いをしようが、そんな貴重な笑顔を見られるのなら。
オレは何度迷っても、ここに残るという選択をしてしまうのだろう。
離れられない理由