戦!セバ ユゼB


初めて近くで見たあの人は、黒い噂なんて嘘だと思ってしまうほど綺麗だった。


「やあ、おはようB君。」
「お、おはようございます、ユーゼフ様。」
向かいの屋敷の主人であるユーゼフ様。
たまにデーデマン家にいらっしゃると、使用人のオレにも挨拶をしてくれる。
それが嬉しくて。
綺麗なこの人に会えるのが密かな楽しみだった。
…最初はこんなはちゃめちゃな屋敷、すぐに辞めようと思ったけれど。
周りがどんどん辞めていくからオレはタイミングが掴めないまま。
今日もデーデマン家で働いている。

やがて仕事に慣れたころ。
ユーゼフ様が突然スイスに行ってしまった。
密かな楽しみをなくしたまま勤め続けて、二年が経ったころ彼はまた突然戻ってきた。
また会えた。
変わらない綺麗な姿を見られただけで、オレはどうしようもなく嬉しくて。
それがどうしてなのか分からなかったけど。
「B君。まだここで働いていたんだね。」
昔みたいに笑顔で名前を呼ばれて。
唐突に気づいた。
「デーデマン家の使用人は、名前を覚える間もなく変わっていたからねえ。また君に会えて嬉しいよ。」
タイミングが掴めなかった、なんてただの言い訳だ。
…いつでも辞めたかったほど大変な仕事でも辞めなかったのは。
あなたがいたからだ。
使用人でいなければ会うことなんて叶わない方だから。
二年間も、また会えることを願いながら仕事を続けていたのだオレは。
「変なちょっかいはかけないで下さいよ、ユーゼフ様。Bは貴重な部下ですから。」
「嫌だなあセバスチャン。ただ仲良くしたいだけじゃないか。」
どくんと心臓が大きく鳴った。
「これからまたよろしくね、B君。」
――自分の気持ちに気づいてしまったから。
ああ、オレはもう何があってもこの仕事を辞めることはないのだろう。
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