戦!セバ その他
「ああ、いたいたセバスチャ…!」
ヤンさんと廊下で話をしていたら、向こうからエルさんが走ってきた。
けれど俺たちの手前でぱかりと奈落への落とし穴が開く。
慌ててムチを取り出して救出するのは、これで何度目だっただろう。
「ありがとうございますセバスチャン。助かりました。」
そしてエルさんは何事もなかったように笑う。
「いえ…。」
「つーかエルお前、そこに落ちるの何回目だよ。」
「すみませんねえ。どうも覚えづらくて。」
まあいいけど気をつけろよ、とヤンさんはにやりと笑って去っていった。
「ヤンと何を楽しそうに話していたんですか?」
ヤンさんを見送っているとそう尋ねられてどきりとする。
さっきまで話していたことが頭をよぎった。
『エルは気に入ったものや人にはすげえ執着するんだよなあ。ああ見えて独占欲も強いし。』
『そうなんですか…。』
突然振られた話題に何て言って良いのか分からず、何よりその言葉に少なからずショックを受けてしまった。
いつも優しい笑顔を見せてくれるあの人が、誰か一人を特別に思い笑いかけるのかと思うと…。
『だから最近のあいつの必死さが伝わってないのが不憫でさ。』
『どういうことですか?』
『いやだから、そういうこと。俺と二人で話してると邪魔しに来たり?体張って穴の上歩いたり?』
にやにや、とヤンさんは笑った。
その時ちょうどエルさんが向こうからやって来て、さすがの俺も何を言っているのか理解してしまったのだった。
「言えないようなことでしたか?ヤンが私の悪口でも言ってたんですかね。」
そんなことはないと否定したかったけど、正直に内容を言うことも出来なくて開きかけた口を閉じるしかなかった。
エルさんは小さいため息のあと、後でヤンにはお仕置きですねえとのんきに呟いて笑った。
「それより旦那様が呼んでいましたよ。行きましょう。」
差し出された手を取りかけて、はたと気づく。
あまりに自然だったから普通に手を繋いでしまうところだった。
「エルさん?」
「また落とし穴を踏んでは大変ですから、落ちないように繋ぎましょう。」
にこりと、柔らかく微笑まれては俺に断ることは出来なくて。
繋いだ手から感じる暖かさが俺をさらに夢中にさせる。
…一緒に落とし穴に落ちるなら、それも悪くない。
そう思えるくらい。