戦!セバ その他
「はあ…しくじった…。」
俺は細い路地に座り込んだ。
わき腹を押さえていた手を視線上に持ってくる。
べっとりと赤い血がこびりついてるのを確認したら、何だかくらくらしてきた。
…ただもうこの世界から足を洗いたかっただけなのになあ。
俺はこのまま、死ぬんだろうか。
あーあ。
せっかくなら死ぬときくらいつまんない顔じゃなくて。
もっと綺麗な、さあ。
「いたぞ!」
見つかってしまったが、もう動く元気はない。
瞼にやきつけたいのはもっと別な。
俺は目を閉じた。
「…人のおもちゃを勝手に処分しないでほしいなあ。」
緊迫したこの場には似つかわない声が聞こえて、そっと目をあける。
何の因果か。
ついさっき頭に浮かんでしまった人物がそこにはいた。
次の瞬間、俺を追ってきた奴らは一様にばたばたと倒れ視界いっぱいが赤く染まる。
血の海の中、ただ一人何事もなかったように立つその人は笑顔を浮かべて近づいてきた。
「君が元気じゃないと、やっぱりつまらないね。」
「ユー、ゼ…。」
「大丈夫。今はお眠り。」
普段なら絶対に素直に聞き入れないけど、俺に判断力など残ってはいなくて。
全てが赤く染まって、くらくらする。
その中で唯一、美しい色をしているこの男がこのときの俺にとっては真実のように思えた。
「この間助けた分のお礼をまだもらってなかったよね。」
この間、と強調して言ってみればメイド服に身を包んだ彼は思い出したくないというように、あからさまに顔を歪めた。
まあ、あたり一面血だらけにして確かにやりすぎちゃったかなあと思うけど。
「…あー、助けてくれてありがとよユーゼフ様。」
嫌そうな顔をしながら完全に棒読み。
「そんな心のこもらないお礼じゃなく、形あるもので感謝を示してもらいたいな。」
「何だよ、寿命とか言ったってやらねえぞ。」
「じゃあ君の体でも良いよ?」
「…は?」
「どっちでお礼してくれるんだい、ヤン。」
「え、ちょっ…ええ?!」
焦ってる焦ってる。
その姿が面白くて知らず笑みが浮かぶ。
彼のこの単純さは、やっぱり見ていて飽きないな。
わざわざ助けて良かった。
…ところで、冗談だよといつ伝えてあげようか。
寿命を払ってほしいわけじゃない。
でも本当は完全に冗談で言ったつもりも、なかったりするから。
もう少しだけ、彼の困ってる姿を眺めていようか。