幕恋 その他

お茶を淹れるために台所へ行くと、賄いの隊士が食事を作っているところだった。
「お疲れさまです。」
「桜庭さん。」
「わあ、蛤のお吸い物。」
「お好きですか?」
「はい。…もしかして、私のために?」
ふと、今日が何の日か思い出す。
気を使ってくれたんだと思うと嬉しい。
「ここじゃ盛大に祝えませんからね。せめてこのくらいはと思って。」

今日はひな祭り。
…確かに新選組で祝う行事ではないよなあ。
「ありがとうございます。でも私に蛤は必要ないんですよ。」
蛤は、他の貝とは絶対に合わないことから良縁に恵まれるようにと食べられる。
私は女を捨てたわけではないけれど。
女の幸せを求めているわけではないし、それに。
「私はもう、新選組というこれ以上ない存在と出会っていますから。」
そう言って笑うと、そうですかと彼も笑った。
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