戦!セバ ユゼデビ


朝、いつものようにデーデマン家の厨房へ向かうと。
「ユーゼフ様。こんな時間から珍しいですね。」
「…セバスチャン、君こそこの時間に厨房にいるなんて珍しいじゃないか。」
厨房の中にお目当てのコックの姿はなく、かわりにセバスチャンが黙々と朝食の準備をしていた。
「デイビー君は?」
彼が厨房にいないなんて、今までなかったことだ。彼に会って、一杯のコーヒーを淹れてもらって。
そうして僕の一日が始まっていたのに。

「ヘイヂのやつが新しく作った落とし穴に今朝方落ちたんですよ。」
意外というか何というか…。
そういうところ、油断している部分あるものねえデイビッド君。
だからセバスチャン、ご機嫌ななめなのか。
そして捜索してさえあげないのも彼らしい、けれど。
「もうお帰りですか?」
「用事が、出来てしまったからね。」
そうして僕は自分の屋敷へと戻るのだった。


…ほんの一日、毎朝見ていたあの笑顔に会えないだけでこんなに切なくなってしまうとは我ながら驚きだけど。
僕は屋敷の地下へと向かう。
色んな道と出口がある落とし穴の先の地下で、デイビッド君がどこを通るかなんて予想はつかない。
彼のことだから、無意識に一番安全で近道を選んで地上へ戻るかもしれない。
この地下の部屋は出口の一つでしか、ない。けれどもしかしたら。
偶然ここへ来てくれたら。
…ああ、僕はこんなにも君に会いたくて仕方ないんだよ。

どれくらい待っただろうか。
やがて地下道の扉がかちゃり、と開いた。
「やっぱりお向かいサン家だったか!」
待ち望んでいた笑顔が、そこに現れた。
「やあ、ディビー君。お疲れさま。」
「デイビッド!」
数時間遅れで交わす、いつもの会話。
たったそれだけのことが。
「そういや途中で未知の生物に遭ったぞう?あれってお向かいサンのペットか?…って、何だか機嫌良さそうだなー。」
知らず笑みが浮かんでしまうほどに。
君に会えたことが嬉しいなんて、執着しすぎだろうか。
「良くここへ、たどり着いたなと思ってね。」
「ああまあ、勘だ!」
ここまでの道は決して楽と言えるものではなかったはずだ。
それでもデイビッド君が、勘という不確かなものを頼りに僕の元へ来てくれたことが。
僕をこんなにも喜ばせる。
心が君でいっぱいになる。
恋い焦がれるとは、こういう気持ちを言うのだろう。
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