戦!セバ ユゼデビ


「お向かいサン、こんな時間に何してるんだ?」
真夜中。
デーデマン家を歩いていたらばったり、厨房から出てきたデイビッド君に遭遇した。
実はこの家を夜中に散歩するのは初めてではないけれど。
誰かに見つかることはないに等しい。
「やあ、デイビー君。君こそ何を?」
「デイビッド!」
いつもと変わらないノリが、僕を怪しんだり訝しんではいないことを伝えてくれた。
まあ、実際これという目的があるわけではないのだから、このくらい軽い反応はありがたい。

「もしかして寝ぼけてるのか?お向かいサン家はここじゃないぞう。」
「一応、それは分かっているつもりだけどね。」
「じゃあ、眠れないのか?」
デイビッド君は意外そうに首を傾げた。
聞いた話によると、彼はどんなところでも眠れる人種らしいので、どうやら眠つきの悪い人の気持ちはあまり理解出来ないらしい。
…僕の場合はそれだけではない、のだけど。

僕は、例え眠らなくても平気なのだ。
一切眠らなくても、生きていくことに支障はない。
「なら俺が特製のココアを作ってやる!」
曖昧に笑うに留めていたら、気を遣ってくれたのかデイビッド君は僕を厨房に招き入れた。
そして慣れた手つきでココアを作る。

「ほら、お向かいサン。これを飲めばぐっすり良い夢見られるぞう?」
笑顔で差し出されたカップを受け取る。
一口飲むと、甘い味が口に広がった。
彼の優しさが体に染み渡っていく。
ああ、本当に。
「おかげで今日は良い夢が見られそうだ。」

自分はもう、夢など見ることはないけれど。
本当に、そう思った。
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