戦!セバ セバデビ


「ハニー。」
その日厨房ではある攻防が繰り広げられていた。

「何だ、デービッド。」
「…そのお向かいサンみたい言い方、止めてくれないかー?」
デイビッドはたまらず三時のおやつを作っていた手を止めて、隣でデーデマン用のおやつを作っているセバスチャンを見やる。
けれどセバスチャンはこちらを見ることもなく、作業の手を止めずに言った。

「さっきも言ったようにお前が俺の名前をきちんと呼べば、すぐに止めてやるが。」
好きな相手に自分の名前を呼んでほしいというのは当然の欲求だし、権利だろうとセバスチャンは言う。
しかし出会ってからずっと『ハニー』と呼び続けているデイビッドは困ったように笑った。
彼にとっては名前で呼ぶよりも特別な呼び方なのだ。
「ハニー、って呼ぶたびにこんなに気持ちをたくさん込めてるのになあ。」
「…だから俺も気持ちを込めて呼んでやってるだろう、デビッド。」

それに、それだけでは足りないのだ。
気持ちが込められているのは分かるけれど。
ハニーと呼ぶことを許した相手も、そう呼ぶ人物も彼一人だけど。
自分以外にも愛称で呼ぶ相手がいる以上、特別な気がしないのだ。
「ハニー可愛いー。」
拗ねたような表情を浮かべると、デイビッドがぱっと笑う。
そうやってセバスチャンが気持ちを表現してくれることは、とても珍しくて。
そこまでするほど名前呼びにこだわるのなら一度くらい呼んでやろう、と笑顔のまま口を開きかけた時。

「…何言ってる。お前の方が可愛いだろう。」
低くささやくような声で、細められた優しい眼差しで。
それはきっと無意識なのだろう、笑顔さえ浮かんでいる。
自分にだけ見せる優しい顔だ。
「…あーやっぱ訂正。かっこいいやハニー…いや。」

恥ずかしそうに一呼吸おいて。
それでもいつものように、たくさんの気持ちを込めて。
デイビッドは愛しい人の名を呼ぶのだった。



1/1ページ
スキ