出会い


生まれつき、体があまり強くなかった。
起きていることよりも、よく熱が出て、布団に伏していることの方が多かった。

だから、両親には「外に出て遊ばないように」と、言いつけられていた。
とても優しく、沢山の愛情で包んでくれる、大好きなお母様とお父様。そんな両親が、虚弱な私を心配をしてくれている事も分かっていた。
けれど、あまり出られない外への興味が尽きなかった五歳の私は、朝起きて、開けた襖から入り込む新鮮な空気をめいっぱい吸い込み、(今日は、体がいつもよりも元気だ!)と感じ、こっそり家の敷地から外へと出てみた。

興味と、好奇心、少しの怖さと、沢山の気持ちを抱えて踏み出してみた外は、とても色鮮やかで心臓が高鳴った。

家の敷地からでも見える空なのに、その時とは違い、空の青さがとても眩しく見えた。

通りの端に咲く小ぶりの可愛らしい花の色鮮やかさ。その通りを歩く人達の話し声に笑い声。
男女が寄り添って歩く姿や、子供と手を繋いで歩く家族の姿。
立ち並ぶ家から漂う食べ物の香りに、ジャブジャブ……ザー……と洗濯をしている音や、何をして遊んでいるのかつい気になってしまう、楽しげな子供の声。

目も耳も、色んなところに意識が向く。そのどれもに興味をそそられ、胸の中に弾むワクワクが止まらない。

今まであまり出られなかった外を歩くことが楽しくて、気付けば、家から随分と離れた所まで来てしまっていた。


(そろそろ帰らないと、お母様やお父様が、私がいないことに気付いたら心配をしてしまうかも。)


両親の言いつけを守らず外に出たが、決して両親に心配をかけたり、悲しませたいわけじゃなかった。
ただ、外への興味が止まらなかっただけ。


(大丈夫。今日は物凄く元気だったし、ちょっとだけ外を見てすぐ帰れば。)


そんな風に、安易に考えていた事が裏目に出てしまった。


── ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙……


家に帰ろうと来た道を振り返えると、道を塞ぐように野良犬が現れた。鋭い牙をむきだし、低く唸る、自分と変わらない大きさの成犬の姿に、足がすくみ動けなくなった。
じりじりと迫ってくる野良犬の気迫に取り込まれ、すくむ足は力が入らず、そのまま、へたりと腰が抜ける。


どうしよう……逃げなきゃ……


そう思う気持ちとは裏腹に、体は全然言うことを聞いてくれない。
それでも何とか逃げようと、へたりこんだまま、後ろにズルズルと後退をする。地面に着いていた手に、ピリッとした痛みを感じながらも、何とか野良犬から逃げようと距離をとっていくが、後退した分を野良犬が1歩1歩詰めてくる。


……怖い、どうしよう……誰か……


さらに低く唸った野良犬は、グッと体勢を沈ませた。


── 飛び掛られる……!!


野良犬の体勢をみてそう感じ、私は咄嗟に顔の前に腕を出して身を守ろうとしながら、心の中で叫んだ。


……お父様…!お母様…!誰か助けて……!!


── ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ヴヴヴッッッガヴ!!!!


犬の爪が地面を蹴る音と、唸り声に、もうダメだと思った時、


「やめろ!!向こうへ行け!!!」


ハツラツと、よく通る声が辺りに木霊した。


ギュッと閉じていた目を薄っすらと開け、前に出していた腕の隙間から前を見ると、誰かが前に立っていた。
自分より背の高い、太陽の光がキラキラと反射して、思わず目を細めてしまう程に眩しく、綺麗な、焔色の髪をした男の子。
その、焔色の髪の男の子が振り向く。


「大丈夫か?」


振り向いた男の子の瞳もまた、力強く輝く焔色をしていて、太陽を閉じ込めたような、まるで宝石のような瞳の輝きは、胸が高鳴ったどんな景色よりも綺麗で、私は思わず息を呑み込んだ。

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