ちいさなおまじない
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書庫で一冊読み終えて気がついた。窓を雨粒がノックしている。時計を見れば午後3時を回ろうとしていた。
アフタヌーンティーの用意をするために階段を降り、庭に目を向ければアモンが摘んだばかりらしい薔薇の花を片手にして小走りに駆けてくるのが見える。
「あ、フェネスさん」
俺に気づいたアモンはヘラっと笑ってみせた。彼はいつも、どの季節でも最高の花を育ててはこの古びた屋敷を彩ってくれる。
「お疲れ様。その薔薇はもしかしなくても」
「ええ、主様の部屋に飾るっすよ。もちろんシッティングルームとエントランスにも」
よく気が利くなぁ。……それに比べて、俺なんて本を読むことぐらいしか取り柄がなくて……。
いつものマイナス思考に陥っていると、玄関の向こうにパカラパカラと馬の蹄の歩む音が聞こえてきた。どうやらハウレスと外出していた主様がお帰りになられたらしい。
いけない。俺がしょげていたら主様に心配される——そう思うよりも早く扉が開いた。
「ただいまー!」
軽やかなソプラノが雨空に差し込む光のようにエントランスに響いた。
「おかえりなさいませ、主様」
タタタっと俺に駆け寄るなり両手を伸ばしてくる。ねだられるがままに腕に抱え上げれば幼い主様はくふくふと笑った。
「フェネス、またへこんでたでしょ?」
「え! いや、そんなこ」
俺の言葉を遮るかのように、唇にふわりと柔らかな感触。
「げんきになれるおまじないなんだって。カタツムリをさがしていたら、こうえんにいたおにいさんとおねえさんがおしえてくれたの」
えー、と。俺、今、主様と……⁉︎
「い、いけません! 主様、このおまじないは他の人にはしないでください!」
背後から「ふーん」と何か言いたそうな声がして、そういえばアモンもいたことを思い出した。
「フェネスさんって独占欲が強いタイプだったんっすね」
「えっ? いや、これはそういう意味じゃなくて」
言葉を続けようとすれば、
「それってどういういみ?」
と首を捻る主様。
「主様をひとりじめしたいって意味っすよ」
持っていた薔薇をひとつ、主様の耳元に挿したついでにその白い頬にキスをする。
「俺はこれで我慢するっす。フェネスさん、これは貸しっすからね」
それじゃ、と言って屋敷の奥に引っ込むアモンに手を振りながら主様はくふくふ笑った。
「フェネスはわたしをひとりじめしたいのね。でもね」
口元を手で覆うと俺の耳に寄せてきた。
「わたしもフェネスをひとりじめしたいから、りょーおもい、なの」
そしてまたくふくふ笑う。それは俺の頬を赤くさせるのには十分すぎるセリフだった。
アフタヌーンティーの用意をするために階段を降り、庭に目を向ければアモンが摘んだばかりらしい薔薇の花を片手にして小走りに駆けてくるのが見える。
「あ、フェネスさん」
俺に気づいたアモンはヘラっと笑ってみせた。彼はいつも、どの季節でも最高の花を育ててはこの古びた屋敷を彩ってくれる。
「お疲れ様。その薔薇はもしかしなくても」
「ええ、主様の部屋に飾るっすよ。もちろんシッティングルームとエントランスにも」
よく気が利くなぁ。……それに比べて、俺なんて本を読むことぐらいしか取り柄がなくて……。
いつものマイナス思考に陥っていると、玄関の向こうにパカラパカラと馬の蹄の歩む音が聞こえてきた。どうやらハウレスと外出していた主様がお帰りになられたらしい。
いけない。俺がしょげていたら主様に心配される——そう思うよりも早く扉が開いた。
「ただいまー!」
軽やかなソプラノが雨空に差し込む光のようにエントランスに響いた。
「おかえりなさいませ、主様」
タタタっと俺に駆け寄るなり両手を伸ばしてくる。ねだられるがままに腕に抱え上げれば幼い主様はくふくふと笑った。
「フェネス、またへこんでたでしょ?」
「え! いや、そんなこ」
俺の言葉を遮るかのように、唇にふわりと柔らかな感触。
「げんきになれるおまじないなんだって。カタツムリをさがしていたら、こうえんにいたおにいさんとおねえさんがおしえてくれたの」
えー、と。俺、今、主様と……⁉︎
「い、いけません! 主様、このおまじないは他の人にはしないでください!」
背後から「ふーん」と何か言いたそうな声がして、そういえばアモンもいたことを思い出した。
「フェネスさんって独占欲が強いタイプだったんっすね」
「えっ? いや、これはそういう意味じゃなくて」
言葉を続けようとすれば、
「それってどういういみ?」
と首を捻る主様。
「主様をひとりじめしたいって意味っすよ」
持っていた薔薇をひとつ、主様の耳元に挿したついでにその白い頬にキスをする。
「俺はこれで我慢するっす。フェネスさん、これは貸しっすからね」
それじゃ、と言って屋敷の奥に引っ込むアモンに手を振りながら主様はくふくふ笑った。
「フェネスはわたしをひとりじめしたいのね。でもね」
口元を手で覆うと俺の耳に寄せてきた。
「わたしもフェネスをひとりじめしたいから、りょーおもい、なの」
そしてまたくふくふ笑う。それは俺の頬を赤くさせるのには十分すぎるセリフだった。
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