花のような

「主様の隣で眠るなんて……でも今だけは……」
 それは、少し仮眠するだけのつもりだった。

「姉さん!?」
「どうしたの? フェネス」
 俺の方を振り返った姉さんだったけれど、真っ赤に立ち昇る火柱を前にして近づくことすらできない。
 それでも俺は手を伸ばさずにはいられなかった。
 姉さんは俺の思いを汲み取ったのか、こちらに手を伸ばして小指で鍵を作ると、ふわりと笑う。
「絶対また会うって誓うからね」
 そうして姉は火の中に飲まれていった——

「……ネス、フェネス!!」
「姉さん!?」
 しばらく夢と現実の区別が曖昧なまま彼女の小指を自分の小指で絡め取った。
「やっと再会できた……」
 ほう、とため息と共に涙が溢れてきて、抱きしめた小さな肩を濡らしてしまう。
「フェネス、とても苦労したのね」
 頭を撫でられながら聞き覚えのある声が胸元から響いてくるのを感じて、ようやく俺の意識は夢から現実へと舞い戻った。
「主様! すみません!!」
 頭を上げられない俺に主様は「いいのいいの」と優しく接してくださる。
「悪夢を見ること、私もあるから。でもそういうとき、フェネスが近くに居てくれたらな……なぁんて思うの。だから、フェネスももっと欲張りになってほしい」
 なんて優しい人なんだ、主様は。
 その上、夢の中までも非力で矮小だった俺の肩にブランケットを掛けてくださった。
「私がまた寝付くまでそばにいてね。眠ったら部屋に帰っていいから。というか、ちゃんと寝た方がいいわ。約束よ」
 主様は右手の小指を差し出してきた。
 あぁ、本当に。だから俺は主様に吸い寄せられてしまう、さながら蝶のように。
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