主様のこいびと 〜過去作再録集〜

「主様? あの、主様?」
 担当執事の困惑した声に『ああ、またやってしまったか』と後悔した。

 若い頃からフェネスと連れ添ってきたことを後悔はしていない。が、今や『燕を侍らせていい気になっているオバサン主のくせに』と街の娘っ子たちから陰口を叩かれる年頃になってしまった。

 もう一度言いたい。
 若い頃にフェネスと恋をして、ずっと寄り添ってもらってきたことに、一片の悔いはない。
 でも、最近は思わずにいられない。彼は若いのだ。だからもっと若くて可愛らしいお嬢さんがお似合いなのに。

「主様、あの、今日の外出の予定なのですが……取りやめて屋敷で過ごしませんか?」
 優しげな声音に向かって私は反射的に言ってしまったのだ。
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