主様のこいびと 〜過去作再録集〜

 ポーチを開けて終わりを確信した。

 ないのだ。
 ナプキンが。

 三十分前にオフィスのお手洗いで交換した時にやばいかもとはぼんやり思ったけど、こんなに早く満タンになるとは予想していなかった。
「……ごめん」
 担当執事に心の底から詫びながら、私は駅のトイレの中で金の指輪を嵌めた。


「ふんふふ〜ん♪」
 耳触りの良い鼻歌が聴こえた。
「ただいま、フェネス」
 転送されたのは屋敷の大浴場。どうやらフェネスは風呂掃除をしていたらしく、袖と裾を捲り、大きな身体を小さくしてブラシを駆使している。
「あれ? 主様、おかえりなさいませ。今日はいつもより早いですね……って、どうされたのですか⁉︎」
 フェネスの視線は私の足元に釘付けだ。それも仕方のないことなのかもしれない。
「あー……これね。ただの生理だから気にしないで」
 出来つつある血溜まりを私は何でもないことのように努めて明るく言った。でも己の執事の目は誤魔化されてはくれなかった。
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