14歳の主張
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今の主こと私が生まれて間もなく、前の主こと母は亡くなったらしい。
母は元々別の世界の人だったとのことだが、私を産むとき、そっちではなくこっちの世界を選んだと聞かされて育った。小さい頃から同時並行の世界が存在すると教えられてきて、それはそれでロマンがあっていいと思っている。
つまり何が言いたいかというと、私はあっちの世界で授かった命だけど、生まれも育ちも完全にこっちの世界……というわけ。母亡き後は執事たち、とりわけフェネスが親代わりとなって私を育ててくれたのだった。
「あれ? 主様……あっ」
起き抜けのベッドを整えていたフェネスはさっと顔を赤らめると、慌てた様子で私を抱きかかえた。そして私はそのまま寝室のすぐ目の前にある小さい方のバスルームに押し込まれる。
「俺はルカスさんのところに行って必要なものを揃えてもらってきますから、主様は……その、汚れを洗い落としてください」
そう言い残し、フェネスはバタバタと出て行ってしまった。
汚れ? 一体何のことだろう? とりあえずお風呂に連れてこられたということは、身体でも洗った方がいいのかもしれない。そう思いネグリジェを脱いで——フェネスがなぜ慌てていたのかが分かった。
お尻のあたりに赤いものが付着している。
ああ、とうとうこの日が来たか。私はそれが初経だとすぐに理解した。しかし、それと同時に急にお腹が痛くなってきた。とりあえず温めた方がいいかもと思い、温水のシャワーをお腹に当てる。そうこうしているうちにルカスがやってきたらしい。脱衣所からルカスの声がする。
「主様、体調はいかがですか?」
にこやかな声に「うん」と返して、ついでなので「当て布かタンポンが欲しい」と伝えた。
「おやおや? 主様はフェネスくんよりもずっと冷静だね」
幼い頃、フェネスとエスポワールの街で見かけた結婚式。求愛行動が結実した結果、動物界では交尾が行われることは知っていた。そして人間の交尾とはどのようなものなのか——幼かったゆえの好奇心からフェネスに聞いたところ、いつものにこにこと穏やかな表情が一変した。華やかな結婚式をもっと見ていたかった私を、フェネスは小脇に抱えて馬車に押し込みそのまま馬車を走らせたのだ。
屋敷に連れ帰られた私は寝室に篭った。しばらくして、ノックの音が聞こえてきた。
「主様、どうしたんだい?」
不貞腐れて籠城する私に、ミヤジは優しく問いかけてきた。相手がフェネスであれば素直には出なかったと思う。ミヤジになら、もしかしたら私の気持ちを分かってもらえるかもしれない。そしてミヤジに部屋に入ってもらっていろいろ話しているうちに、私の誤った知識を正された。
そのときに初経についても教えてもらっていたので、とうとう私にもこの日が来たか、くらいにしか思わなかったのだ。
「うん。私は冷静。フェネスはどうしてるの?」
「フェネスくんだったらシーツの洗濯に行ったよ」
あー、手をわずらわせてしまったか。ついでにネグリジェと下着の洗濯も……と思ったけれど、さすがにそれはなんだか恥ずかしい気がして、湯浴みついでに下洗いくらいはしておくことにした。
その日を境に、私に対する執事たちの態度がなんだか変わった。
まず、ベリアンのマナー指導が手加減なくなった。食事のときもテーブルマナーをうるさく言われるから、
「そんなこと言われたら全っ然美味しくない!」
って返したら「あらあら」と受け流された。それがまた気に入らなくて、
「ベリアンの馬鹿! 髪の毛に紅しょうが!」
と、ベリアンの赤メッシュについて街の人たちがコソコソと言っていた悪口を言ってしまった。それでも笑顔を崩さないベリアンに腹が立ち、せっかくロノが美味しそうに焼いてくれた私の大好物・ドライトマトのフォカッチャをまるっと残して席を立った。
それから……馬小屋近くにある畑の一角に、私が何を育ててもいいスペースがある。そこに今年は枝豆を植えていて、この手で収穫するのをとても楽しみにしていた。なのに。
「主様。日に焼けるといけない。畑仕事は俺がやるから、木陰で涼んでいるといい」
バスティンもあっち側[#「あっち側」に傍点]の人間なのか。そう思ったらまた腹が立ってしまった。
「バスティンの陰キャ! ムーしか友達がいないくせに‼︎」
「それは……間違いではないな」
こういうのが、ユーハンが言っていた【暖簾に腕押し】というやつか。自分でもよく分からない苛立ちがつのり、そっぽを向いて駆け出した。
こんな感じのことが頻繁なものだから、執事たちがしてくれることがただただ嫌で嫌で仕方がない。もちろん頭では私のためを思ってくれているのは分かるんだけど、分かるがゆえに余計イライラしてしまう。
私と執事たちがギスギスして(というか私が一方的にイラついて)いるのを何とかしようと、フェネスが取り持とうするのも気に入らない。と言ってもフェネスのことを嫌いになったわけではない。というか、キュンとするこの胸の内は何なのか?
もしかしたらハナマルならそういった諸々の気持ちの正体も何か知っているかもしれない。教会の孤児院で何人もの子どもを育てた経験があるらしいし。そういうわけで私の足は別邸に向かった。
「主様から俺のところに来るなんてめずらしいな」
ハナマルは2・3回私の頭をぽふぽふとやさしく叩いた。
「俺のことが恋しくなっちゃったのか〜?」
おちゃらけながら緑茶を淹れて、大福と共にテーブルに置く。
「立ち話もアレだから座ろうぜ。ユーハンとテディちゃんなら街まで買い出しに行ってて夕方まで帰って来ないだろうし」
ハナマルに促されるがままに腰を下ろし、お茶をひと口飲めば、紅茶とは違う旨味が口の中いっぱいに広がった。ハナマルやユーハンが淹れてくれるから何度か飲む機会があるけど、緑茶はなんとなくなつかしい香りがする。
お茶をしながらハナマルは世間話を振ってきた。ユーハンと味噌について軽く論争をしたことや、テディにコーヒーの淹れ方を習ったけどやはり緑茶の方が落ち着く……などの、割と当たり障りのない内容。それは私の凝り固まった心をやわらかくほぐしてくれた。
「やっと笑ってくれたな」
ニヒヒヒと笑われた。そういえばこの数日、笑った記憶がない。それに気がついた途端、涙が頬を伝った。
「泣くことでストレス解消になることもあるから。だからしっかり泣けばいいぜ」
私がポケットからハンカチを取り出し、そこに顔を埋めていると、やさしい口調で話しかけられながらまたぽふぽふと頭を叩かれた。
「主様の心はなぁんも変わっちゃいねぇのに、|執事たち《あいつら》の態度が急に変わっちまったから、そりゃあついていけないよな」
私のことを分かってくれている人がいる。それが嬉しくてまた泣けた。
私がひとしきり泣いてスッキリしたところで、ハナマルが「ひとつ聞きてぇんだけど」と口を開く。
「主様は変わらず|執事たち《俺ら》のことが好きなんだろ?」
「うん」
「だったらさ」
ハナマルはまたもやニヒヒヒと笑い、それから、まさに目から鱗の提案をしてきたのだった。
「あ! 主様⁉︎」
最初に駆けつけてきたのはアモンだった。
「そんなところで何やってるんすか? 早く降りてくださいっす!」
ハナマルが触れ回ってくれたおかげで、執事たちがわらわらと眼下に集まってくる。ハウレスが梯子を登って屋根まで来ようとしたけれど「そんなことしたら梯子を外すから」と言えば「ですが……」と言ったまま固まった。
そうして眩しい西陽を受けていると、屋敷の前に16[#「16」は縦中横]人と1匹の執事が全員揃った。口々に「危ないです」「早まらないでください」と言っている声が聞こえてきたけど、全部無視した。
そして、陽が森の向こうに暮れていこうとしているまさにそのとき、いよいよ作戦を決行することにする。
「|執事たち《みんな》にー! 言いたいことがー! ありまーす‼︎」
私の大声にみんながシンと黙った中、ハナマルだけが「なぁにー?」と大声で返してくれた。
「この前までー! 私にやさしくしてくれたのはー! 私が子どもだったからですかー?」
「そ、そんなことは……!」
ベリアンが慌てて言い訳を始める。
「主様にはより一層立派なレディになっていただくために、少し厳しくしたかと思います!ですが主様を屋根の上まで追い詰めたかった訳では決してありません‼︎」
「だったらいいのー! 私は、みんなのことがだいすきだからー、できたら今まで通りが嬉しいでーす!」
大好きという言葉に安堵したらしい、全員胸を撫で下ろした。しかし私の主張はまだ終わったわけではない。
「それから、フェネスー!」
突然呼ばれたフェネスは驚いた顔で、自分を指差している。私は大きく頷いて見せた。
「私はー! フェネスのことがー! いっちばーんだいすきでーす! というか、愛してるー! これからもよろしくねー‼︎」
フェネスは一瞬固まると、長い両腕で大きな丸を作って見せてくれた。そしていつの間にか屋根に登ってきていたナックに、私は身柄を確保されてしまったのだった。
翌日。ベリアンのマナー指導は相変わらず続いたけど、厳しさが少しばかり和らいだ。畑作業をしている間はバスティンが日傘でガードしてくれることで折り合いがつき、そしてフェネスはというと。
「主様、休憩になさいませんか?」
バスティンから日傘を受け取ると私に右手を差し出してきた。
「スイカのフルーツティーをご用意いたしました……って、ええっと、俺なんかが何をしているんでしょうね⁉︎」
慌てふためくフェネスの手のひらに土を払った右手を重ね、私はクソ暑いにも関わらずそのままガシッと抱きついてやった。
母は元々別の世界の人だったとのことだが、私を産むとき、そっちではなくこっちの世界を選んだと聞かされて育った。小さい頃から同時並行の世界が存在すると教えられてきて、それはそれでロマンがあっていいと思っている。
つまり何が言いたいかというと、私はあっちの世界で授かった命だけど、生まれも育ちも完全にこっちの世界……というわけ。母亡き後は執事たち、とりわけフェネスが親代わりとなって私を育ててくれたのだった。
「あれ? 主様……あっ」
起き抜けのベッドを整えていたフェネスはさっと顔を赤らめると、慌てた様子で私を抱きかかえた。そして私はそのまま寝室のすぐ目の前にある小さい方のバスルームに押し込まれる。
「俺はルカスさんのところに行って必要なものを揃えてもらってきますから、主様は……その、汚れを洗い落としてください」
そう言い残し、フェネスはバタバタと出て行ってしまった。
汚れ? 一体何のことだろう? とりあえずお風呂に連れてこられたということは、身体でも洗った方がいいのかもしれない。そう思いネグリジェを脱いで——フェネスがなぜ慌てていたのかが分かった。
お尻のあたりに赤いものが付着している。
ああ、とうとうこの日が来たか。私はそれが初経だとすぐに理解した。しかし、それと同時に急にお腹が痛くなってきた。とりあえず温めた方がいいかもと思い、温水のシャワーをお腹に当てる。そうこうしているうちにルカスがやってきたらしい。脱衣所からルカスの声がする。
「主様、体調はいかがですか?」
にこやかな声に「うん」と返して、ついでなので「当て布かタンポンが欲しい」と伝えた。
「おやおや? 主様はフェネスくんよりもずっと冷静だね」
幼い頃、フェネスとエスポワールの街で見かけた結婚式。求愛行動が結実した結果、動物界では交尾が行われることは知っていた。そして人間の交尾とはどのようなものなのか——幼かったゆえの好奇心からフェネスに聞いたところ、いつものにこにこと穏やかな表情が一変した。華やかな結婚式をもっと見ていたかった私を、フェネスは小脇に抱えて馬車に押し込みそのまま馬車を走らせたのだ。
屋敷に連れ帰られた私は寝室に篭った。しばらくして、ノックの音が聞こえてきた。
「主様、どうしたんだい?」
不貞腐れて籠城する私に、ミヤジは優しく問いかけてきた。相手がフェネスであれば素直には出なかったと思う。ミヤジになら、もしかしたら私の気持ちを分かってもらえるかもしれない。そしてミヤジに部屋に入ってもらっていろいろ話しているうちに、私の誤った知識を正された。
そのときに初経についても教えてもらっていたので、とうとう私にもこの日が来たか、くらいにしか思わなかったのだ。
「うん。私は冷静。フェネスはどうしてるの?」
「フェネスくんだったらシーツの洗濯に行ったよ」
あー、手をわずらわせてしまったか。ついでにネグリジェと下着の洗濯も……と思ったけれど、さすがにそれはなんだか恥ずかしい気がして、湯浴みついでに下洗いくらいはしておくことにした。
その日を境に、私に対する執事たちの態度がなんだか変わった。
まず、ベリアンのマナー指導が手加減なくなった。食事のときもテーブルマナーをうるさく言われるから、
「そんなこと言われたら全っ然美味しくない!」
って返したら「あらあら」と受け流された。それがまた気に入らなくて、
「ベリアンの馬鹿! 髪の毛に紅しょうが!」
と、ベリアンの赤メッシュについて街の人たちがコソコソと言っていた悪口を言ってしまった。それでも笑顔を崩さないベリアンに腹が立ち、せっかくロノが美味しそうに焼いてくれた私の大好物・ドライトマトのフォカッチャをまるっと残して席を立った。
それから……馬小屋近くにある畑の一角に、私が何を育ててもいいスペースがある。そこに今年は枝豆を植えていて、この手で収穫するのをとても楽しみにしていた。なのに。
「主様。日に焼けるといけない。畑仕事は俺がやるから、木陰で涼んでいるといい」
バスティンもあっち側[#「あっち側」に傍点]の人間なのか。そう思ったらまた腹が立ってしまった。
「バスティンの陰キャ! ムーしか友達がいないくせに‼︎」
「それは……間違いではないな」
こういうのが、ユーハンが言っていた【暖簾に腕押し】というやつか。自分でもよく分からない苛立ちがつのり、そっぽを向いて駆け出した。
こんな感じのことが頻繁なものだから、執事たちがしてくれることがただただ嫌で嫌で仕方がない。もちろん頭では私のためを思ってくれているのは分かるんだけど、分かるがゆえに余計イライラしてしまう。
私と執事たちがギスギスして(というか私が一方的にイラついて)いるのを何とかしようと、フェネスが取り持とうするのも気に入らない。と言ってもフェネスのことを嫌いになったわけではない。というか、キュンとするこの胸の内は何なのか?
もしかしたらハナマルならそういった諸々の気持ちの正体も何か知っているかもしれない。教会の孤児院で何人もの子どもを育てた経験があるらしいし。そういうわけで私の足は別邸に向かった。
「主様から俺のところに来るなんてめずらしいな」
ハナマルは2・3回私の頭をぽふぽふとやさしく叩いた。
「俺のことが恋しくなっちゃったのか〜?」
おちゃらけながら緑茶を淹れて、大福と共にテーブルに置く。
「立ち話もアレだから座ろうぜ。ユーハンとテディちゃんなら街まで買い出しに行ってて夕方まで帰って来ないだろうし」
ハナマルに促されるがままに腰を下ろし、お茶をひと口飲めば、紅茶とは違う旨味が口の中いっぱいに広がった。ハナマルやユーハンが淹れてくれるから何度か飲む機会があるけど、緑茶はなんとなくなつかしい香りがする。
お茶をしながらハナマルは世間話を振ってきた。ユーハンと味噌について軽く論争をしたことや、テディにコーヒーの淹れ方を習ったけどやはり緑茶の方が落ち着く……などの、割と当たり障りのない内容。それは私の凝り固まった心をやわらかくほぐしてくれた。
「やっと笑ってくれたな」
ニヒヒヒと笑われた。そういえばこの数日、笑った記憶がない。それに気がついた途端、涙が頬を伝った。
「泣くことでストレス解消になることもあるから。だからしっかり泣けばいいぜ」
私がポケットからハンカチを取り出し、そこに顔を埋めていると、やさしい口調で話しかけられながらまたぽふぽふと頭を叩かれた。
「主様の心はなぁんも変わっちゃいねぇのに、|執事たち《あいつら》の態度が急に変わっちまったから、そりゃあついていけないよな」
私のことを分かってくれている人がいる。それが嬉しくてまた泣けた。
私がひとしきり泣いてスッキリしたところで、ハナマルが「ひとつ聞きてぇんだけど」と口を開く。
「主様は変わらず|執事たち《俺ら》のことが好きなんだろ?」
「うん」
「だったらさ」
ハナマルはまたもやニヒヒヒと笑い、それから、まさに目から鱗の提案をしてきたのだった。
「あ! 主様⁉︎」
最初に駆けつけてきたのはアモンだった。
「そんなところで何やってるんすか? 早く降りてくださいっす!」
ハナマルが触れ回ってくれたおかげで、執事たちがわらわらと眼下に集まってくる。ハウレスが梯子を登って屋根まで来ようとしたけれど「そんなことしたら梯子を外すから」と言えば「ですが……」と言ったまま固まった。
そうして眩しい西陽を受けていると、屋敷の前に16[#「16」は縦中横]人と1匹の執事が全員揃った。口々に「危ないです」「早まらないでください」と言っている声が聞こえてきたけど、全部無視した。
そして、陽が森の向こうに暮れていこうとしているまさにそのとき、いよいよ作戦を決行することにする。
「|執事たち《みんな》にー! 言いたいことがー! ありまーす‼︎」
私の大声にみんながシンと黙った中、ハナマルだけが「なぁにー?」と大声で返してくれた。
「この前までー! 私にやさしくしてくれたのはー! 私が子どもだったからですかー?」
「そ、そんなことは……!」
ベリアンが慌てて言い訳を始める。
「主様にはより一層立派なレディになっていただくために、少し厳しくしたかと思います!ですが主様を屋根の上まで追い詰めたかった訳では決してありません‼︎」
「だったらいいのー! 私は、みんなのことがだいすきだからー、できたら今まで通りが嬉しいでーす!」
大好きという言葉に安堵したらしい、全員胸を撫で下ろした。しかし私の主張はまだ終わったわけではない。
「それから、フェネスー!」
突然呼ばれたフェネスは驚いた顔で、自分を指差している。私は大きく頷いて見せた。
「私はー! フェネスのことがー! いっちばーんだいすきでーす! というか、愛してるー! これからもよろしくねー‼︎」
フェネスは一瞬固まると、長い両腕で大きな丸を作って見せてくれた。そしていつの間にか屋根に登ってきていたナックに、私は身柄を確保されてしまったのだった。
翌日。ベリアンのマナー指導は相変わらず続いたけど、厳しさが少しばかり和らいだ。畑作業をしている間はバスティンが日傘でガードしてくれることで折り合いがつき、そしてフェネスはというと。
「主様、休憩になさいませんか?」
バスティンから日傘を受け取ると私に右手を差し出してきた。
「スイカのフルーツティーをご用意いたしました……って、ええっと、俺なんかが何をしているんでしょうね⁉︎」
慌てふためくフェネスの手のひらに土を払った右手を重ね、私はクソ暑いにも関わらずそのままガシッと抱きついてやった。
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