赤ちゃんと一緒
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育児は大変だ。3時間置きの授乳にオムツ交換、そして寝かしつけ。他の執事たちも助けてくれるとはいえ、ぐずる赤ちゃんを泣き止ませられるのが俺しかいないとなると、さすがに目の下には睡眠不足の隈ができてきた。それでも主様が残していってくださった赤ちゃんはかわいらしくて、ずっと眺めていたくなる。特に目元などは主様にそっくりだ。
2階の執事室に赤ちゃんをお連れするわけにもいかなくて、俺は主様の寝室に泊まり込んでいる。そこかしこに主様の残像が残っている空間は俺を感傷に浸らせるには十分で、赤ちゃんを寝かしつけて俺もベッドに横たわれば主様の匂いがしてきて泣きそうになる。それでも泣き虫の俺が涙したのは主様が亡くなったその日だけで、あとはノンストップ育児に必死な毎日を送っていた。
赤ちゃんの首がすわる頃には夜間授乳から解放され、まとまった睡眠が取れるようになって身体がかなりラクになってきた。これならトレーニングを再開しても問題なさそうだ。2階の執事室からダンベルを持ち込み、腕立て伏せと腹筋も何とか育児前までの回数に戻った。赤ちゃんに何かあったときにお守りするのは俺の役目だ。そう思うとより一層トレーニングに身が入る。
育児とは別に、次の主様をどうするか、という問題も出てきた。天使の警報は相変わらず鳴るし、そうなると戦いに出た執事が怪我をして帰ってくることもある。ベリアンさんを始めとした各階の室長たちが、どうしたものかと頭を抱えているところを見ることもしばしばだ。
「***様に主様の資質があればいいんですけどね」
ようやく立てるようになった赤ちゃんにそう話しかけたところで問題が解決するはずもない。むしろ困っていることが伝わってしまい泣き出してしまった。
「すみません、***様。責めているわけでも困らせようとしているわけでもないのです。
あ、そうだ! ***様にもお教えしますね。まず、ここに一冊の本があります」
俺は前の主様が数回しか使わなかった魔導書を取り出した。
「そして、この記号をなぞってこう唱えます。『来たれ、闇の盟友よ。我は汝を召喚する。ここに悪魔との契約によりフェネスの力を解放せよ』……なぁんて」
赤ちゃんの人差し指をお借りして記号をなぞれば、あぶあぶと機嫌よくはしゃいでいる。するとどうだろうか、俺の契約している悪魔が姿を現した。
「……え?」
え、何で⁉︎ 混乱する俺を他所に、赤ちゃんは出現した白い牡鹿にキャッキャと手を叩いて喜んでいる。
これは、もしかして!
俺は地下にあるベリアンさんの研究室へと急いだ。
「俺です、フェネスです、ベリアンさん! 大変です‼︎」
中から返事はない。どうやら天使の研究に没入しているようだ。
「失礼します! ベリアンさん、大変なんです、赤ちゃんが‼︎」
勢い余ってドアを壊してしまった。だけどそれどころではない。文献を読み漁っていたベリアンさんの視線がゆらりと俺の方に向く。
「どうしたのですか、フェネスくん……えっ、フェネスくん、それは……⁉︎」
ベリアンさんが立ち上がる。その拍子に椅子がガタンと倒れたけど、ふたりとも気にしている場合ではなかった。
「どうして……フェネクスが?」
俺の背後の白い牡鹿に、ベリアンさんも驚愕の表情を見せた。
ベリアンさんの声かけで食堂に執事たちが続々と集まってきた。
「皆さんに大事なお知らせです。新しい主様が決まりました」
「おや、ベリアン。これからいらっしゃるのではなく【決まった】とは……?」
ルカスさんの疑問にベリアンさんは答える。
「はい。フェネスくんの悪魔の力の解放に成功した人物が見つかりました」
みんなの視線が一斉に俺の方に向いた。
「フェネスの悪魔の力の解放って……フェネスは育児中ですよね? どうやってその人物と接触を?」
ハウレスが全員の疑問を代弁する。
「ええ、フェネスくんがお育てしている赤ちゃんこそが、新しい主様です」
ベリアンさんの説明に俺以外の全員が目を丸くした。
「信じ難いかもしれませんが、フェネスくんの悪魔の力が解放されているのを、私はこの目で確認いたしました」
「どうやって? それに、偶然なんじゃねぇか?」
ボスキの声に、俺はサッと緊張する。このチャンスを逃せば新しい主様探しが再開されて、場合によっては赤ちゃんが主様の部屋から追い出されるかもしれない。
「それではもう一度やりますね。***様、いいですか?」
こくんと頷く赤ちゃんに本を開くと、今度は自分から本の記号をなぞった。
「『来たれ、闇の盟友よ。我は汝を召喚する。ここに悪魔との契約により執事たちの力を解放せよ』」
「あぶあぶ、あぶぶ」
誰がどう聞いても喃語なのだけど、どうやらそれは関係ないらしい。俺を含めて全員の悪魔の力を無駄に解放することに成功した。
こうして赤ちゃんは、年齢1歳にしてこのデビルズパレスの新しい主様となったのだった。
2階の執事室に赤ちゃんをお連れするわけにもいかなくて、俺は主様の寝室に泊まり込んでいる。そこかしこに主様の残像が残っている空間は俺を感傷に浸らせるには十分で、赤ちゃんを寝かしつけて俺もベッドに横たわれば主様の匂いがしてきて泣きそうになる。それでも泣き虫の俺が涙したのは主様が亡くなったその日だけで、あとはノンストップ育児に必死な毎日を送っていた。
赤ちゃんの首がすわる頃には夜間授乳から解放され、まとまった睡眠が取れるようになって身体がかなりラクになってきた。これならトレーニングを再開しても問題なさそうだ。2階の執事室からダンベルを持ち込み、腕立て伏せと腹筋も何とか育児前までの回数に戻った。赤ちゃんに何かあったときにお守りするのは俺の役目だ。そう思うとより一層トレーニングに身が入る。
育児とは別に、次の主様をどうするか、という問題も出てきた。天使の警報は相変わらず鳴るし、そうなると戦いに出た執事が怪我をして帰ってくることもある。ベリアンさんを始めとした各階の室長たちが、どうしたものかと頭を抱えているところを見ることもしばしばだ。
「***様に主様の資質があればいいんですけどね」
ようやく立てるようになった赤ちゃんにそう話しかけたところで問題が解決するはずもない。むしろ困っていることが伝わってしまい泣き出してしまった。
「すみません、***様。責めているわけでも困らせようとしているわけでもないのです。
あ、そうだ! ***様にもお教えしますね。まず、ここに一冊の本があります」
俺は前の主様が数回しか使わなかった魔導書を取り出した。
「そして、この記号をなぞってこう唱えます。『来たれ、闇の盟友よ。我は汝を召喚する。ここに悪魔との契約によりフェネスの力を解放せよ』……なぁんて」
赤ちゃんの人差し指をお借りして記号をなぞれば、あぶあぶと機嫌よくはしゃいでいる。するとどうだろうか、俺の契約している悪魔が姿を現した。
「……え?」
え、何で⁉︎ 混乱する俺を他所に、赤ちゃんは出現した白い牡鹿にキャッキャと手を叩いて喜んでいる。
これは、もしかして!
俺は地下にあるベリアンさんの研究室へと急いだ。
「俺です、フェネスです、ベリアンさん! 大変です‼︎」
中から返事はない。どうやら天使の研究に没入しているようだ。
「失礼します! ベリアンさん、大変なんです、赤ちゃんが‼︎」
勢い余ってドアを壊してしまった。だけどそれどころではない。文献を読み漁っていたベリアンさんの視線がゆらりと俺の方に向く。
「どうしたのですか、フェネスくん……えっ、フェネスくん、それは……⁉︎」
ベリアンさんが立ち上がる。その拍子に椅子がガタンと倒れたけど、ふたりとも気にしている場合ではなかった。
「どうして……フェネクスが?」
俺の背後の白い牡鹿に、ベリアンさんも驚愕の表情を見せた。
ベリアンさんの声かけで食堂に執事たちが続々と集まってきた。
「皆さんに大事なお知らせです。新しい主様が決まりました」
「おや、ベリアン。これからいらっしゃるのではなく【決まった】とは……?」
ルカスさんの疑問にベリアンさんは答える。
「はい。フェネスくんの悪魔の力の解放に成功した人物が見つかりました」
みんなの視線が一斉に俺の方に向いた。
「フェネスの悪魔の力の解放って……フェネスは育児中ですよね? どうやってその人物と接触を?」
ハウレスが全員の疑問を代弁する。
「ええ、フェネスくんがお育てしている赤ちゃんこそが、新しい主様です」
ベリアンさんの説明に俺以外の全員が目を丸くした。
「信じ難いかもしれませんが、フェネスくんの悪魔の力が解放されているのを、私はこの目で確認いたしました」
「どうやって? それに、偶然なんじゃねぇか?」
ボスキの声に、俺はサッと緊張する。このチャンスを逃せば新しい主様探しが再開されて、場合によっては赤ちゃんが主様の部屋から追い出されるかもしれない。
「それではもう一度やりますね。***様、いいですか?」
こくんと頷く赤ちゃんに本を開くと、今度は自分から本の記号をなぞった。
「『来たれ、闇の盟友よ。我は汝を召喚する。ここに悪魔との契約により執事たちの力を解放せよ』」
「あぶあぶ、あぶぶ」
誰がどう聞いても喃語なのだけど、どうやらそれは関係ないらしい。俺を含めて全員の悪魔の力を無駄に解放することに成功した。
こうして赤ちゃんは、年齢1歳にしてこのデビルズパレスの新しい主様となったのだった。
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