このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

重なる面影

 主様と俺はエスポワールの街にある美術館に来ている。以前主様が画集を広げて、実物をご覧になりたいとおっしゃっていた絵画が目的だ。
「すごい……絵の具がゴツゴツしているのね」
 主様にとっては初めての美術館だ。鑑賞の仕方は人それぞれではあるけれど、少しだけ助言をして差し上げることにした。
「主様、近くで観るより少し離れた方が全体を楽しめますよ」
 すると、どうだろうか。主様は、ごくごく小さなお声で「ひゃあ」と感動の声を上げた。
「すごい、フェネス。このお花の絵、本で見たもしゃの絵よりもずっとせん細だと思うの」
 瞳をきらきらと輝かせながら一枚一枚を丁寧にご覧になっていく。
 しかし、芸術鑑賞は自分が思う以上にエネルギーを使う。それは主様も例外ではなく、目的の絵画にたどり着く前にお腹がキュルリと鳴っているのが聞こえてきた。
「主様、ここの美術館にはカフェもございますよ。よろしければ少しご休憩されてはいかがでしょうか?」
 俺の提案に主様の目はもっと輝きを放ち始める。
 それはかつて、キッチンではちみつ入りのホットミルクをご用意したときに、俺の隣で今か今かと待っていらっしゃった前の主様の姿を思い出させるには十分だった。
1/1ページ
    スキ