ーーー私 の夢、希望、妄想です。
IWGP
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「私子」
開けた窓の下から京一の声が聞こえた。まさか、という思いと、京一なら、という思いでぞわりと鳥肌が立った。ここはタカシくんの縄張り。京一が来たら、酷いことが起こる。窓に飛びついて、下を覗き込む。
「何してるのっ」
姿を見る前から叫んでいた。見下ろした先には、古くて猥雑、夜にはゴミだらけの商店街には似合わない佇まい。敵地であってもいつもの優しい笑顔を浮かべてる。でも、そんな余裕がない状況だってことくらい、私だって知ってる。
「お前が来ないから、俺が来た。話がしたい。」
京一の言葉が終わる前に、部屋を飛び出して階段を駆け下りていた。玄関ではなく、店に回り、ドアのカギを開けた。観音開きのガラス戸を半分だけ開き、京一の腕を掴んで引き摺りこむ。少しだけ首を出し、辺りを見回した。呼び込み、酔っ払い、遊び人。こちらに目を向ける人は見当たらない。
振り返ると、京一は呑気に店の中を見回していた。物珍しそうに、何もない棚を覗き込む。
「ねぇ、何してるの。どうやって来たの。」
腕を掴んで振り向かせる。一瞬驚いた顔を見せたが、すぐににこりと笑い掛けてきた。
どこまでも浮世離れしている新しい国の王様。こっちがハラハラする。
「私子と話をしに。ここまでは歩いて来た。」
悲鳴を飲み込んだ。思わず頭を抱えそうになる。それなら、Gボーイズがここに来るのも時間の問題だ。駅から5分でも、それまでに目は何百とある。
私の表情を読んでか、京一がふふと悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべる。
「悪い、うそだ。歩いてくるつもりだったが、うちのメンバーに止められた。ここまではタクシーで来た。誰も気づかない。」
「やめてよ、もう。こっちは心臓が止まりそうなのに。」
恐怖が怒りになって、思わず吐き捨てる様な言い方をして横を向いた。後悔する暇もなく、京一が宥めるように言う。
「タカシに脅されたか?」
正面から見た京一は、責めるでも同情するでもなく、ただ子供を諫めるような目をしていた。全てを見透かす眼。何も言えなくなる。
京一がズボンのポケットから薄い何かを出し、自分の顔の横に並べる。花柄のメモ。私がウエストゲートパークのパイプベンチに貼ったもの。私がいつも座る所の裏側に。京一なら気付くと思った。待ち合わせはいつもその中立地帯だったから。
「『今日は行けない。もう会えない。ごめんなさい。』電話には出ないし、このままじゃ本当に会えなくなると思って、ここに来た。俺が勝手に会いに来たんだ、お前は悪くないだろ。」
「そんなのタカシくんには通用しないよ。私はエンジェルスの人と会うなって言われてるの、例外はない、こんなことバレたら」
「処罰される?私子はGボーイズでもないのに、タカシの所有物でもないのに、どんな権限があってそんなことを?」
停止していた思考回路が動き出す。
そう、私はタカシくんの所有物じゃない、ペットなんかじゃない。けど、そんなこと誰が認めてくれる?私の声は誰にも届かない。誰も聞かない。タカシくんでさえ。
「…タカシくんは王様なの、この街は全部、タカシくんのものなの。誰も逆らえないの。」
自分に言い聞かせるように唱える。考えるな、考えても辛いだけ。考えても何も変わらない。
「俺は違う。俺や、エンジェルスは違う。あいつのものにはならない、あいつに従うこともしない。私子だって、そうする必要はない。支配するだけの王様なんて、この街にはいらない。」
分かってない。首を横に振った。タカシくんが支配するだけの王様じゃないことを、みんな知ってる。この街のために、どれだけ尽くしているかも。だから、誰も逆らわないんだ。
「もう帰って、もう来ないで。ここはタカシくんの場所。」
「私子」
抱き寄せようとする京一の腕を払う。それでも踏みこんで、私の身体を引き寄せる。私が京一の腕の中で暴れたのはほんの数秒だった。すぐにその体温にしがみついて、涙を流した。恐怖はない。温かい涙だった。
「私子、聞いてくれ。こんな紙切れだけのさよならなんて、俺はしたくない。もっと私子と話がしたいし、いろんな所へ行きたい。私子と同じものを見て、聞いて、思ったことを言い合いたい。私子と過ごした時間、俺はずっと幸せだった。」
夢なのかと呆然として、京一を見上げる。口元は柔らかく笑っているが、眼は真剣だった。吸い込まれそうな深い眼。タカシくんのと似てる。
「私子のことが好きだ。」
顔が眼の前まできて止まる。唇が触れそうな寸前。
「私子は?どうだ?」
やっぱり夢なんだろうか。誰かが、私のことを好きだなんて。それも京一が。
驚きで何も言えないでいると、一度伏せられた目蓋がゆっくり開く。睫毛が当たりそう。
「無理矢理奪うようなことはしたくない。俺はタカシとは違う。」
返事がほしいと呟く。
もう京一のことしか頭には残ってなかった。もうどうでもいい、今言わなければ、絶対に後悔する。
「好きだよ、私も京一がすき」
全てが言い終わる前に私達はキスしていた。初めは触れるだけ。それから京一が先に動いて、私もそれに倣って顔の向きを入れ替える。もちろん、そんなことをしたのは初めてで、知識も曖昧だったけど。京一のリードが上手かったのか、それとも私の中にある本能とでもいうのか、全てが流れるように動いた。唇も、舌も、抑えた声も、流れ込む唾液にさえ戸惑うことはなかった。ただ気持ち良かった。頭と背中に回された腕が、そこから動かないのがもどかしくなるくらい。もっと触れたい、もっと触れて欲しい。それしか考えられなかった。
酸欠になるほどキスをして、私達はまた抱き合った。ずっとずっと長い時間、そうしていた気がする。ずっとずっとそうしていたかった。
「…一緒にいよう、私子のことは俺が守るから。」
頷こうとした時、ふとお店の中に眼がいった。古いレジ、ガラス張りのドア、がらんとした木の棚。
私がここを離れたら、ここはどうなるだろう。Gボーイズやエンジェルスのよく使う店の窓ガラスが割られたという話は聞いている。ボヤが起きた店もある。私がここを離れたら。
タカシくんは必ず報復をする。裏切りは許されない。私は帰る場所を無くす。
「いけないよ。」
言葉が口から零れていた。京一は驚いて、どうしてと言った。
「私がここから逃げたら、このお店がペナルティをくらう…。ここには家族もいるし、お店がなくなったら、うちはやっていけない…。」
今度は私が宥めるように京一の腕を撫でた。無理して笑って言う。
「バレなければ、だいじょうぶ。心の中まで、タカシくんは見えない。いつか、また会える。だから、だいじょうぶ。」
けど、と京一は言ったけど、私の顔を横に振った。
「タカシくんは、私が逆らわなければ満足なの。だから、良い子にしてる。ここ以外のどこかで会えばいい、二人で、隠れ場所を探して、誰にもバレないようにすれば。」
そう、バレなければいいだけ。タカシくんは私を好きな訳じゃない、ただ思い通りに動かない私が嫌なんだ。
「キスして」
笑って言う。安心させるように。安心するように。
「帰る前に、もう一度。」
京一は少し迷っているようだったけど、自分を納得させるように頷いて、もう一度首を下げた。
今度は私から唇に触れる。
これが私達の最後のキスにならないことを願って。
開けた窓の下から京一の声が聞こえた。まさか、という思いと、京一なら、という思いでぞわりと鳥肌が立った。ここはタカシくんの縄張り。京一が来たら、酷いことが起こる。窓に飛びついて、下を覗き込む。
「何してるのっ」
姿を見る前から叫んでいた。見下ろした先には、古くて猥雑、夜にはゴミだらけの商店街には似合わない佇まい。敵地であってもいつもの優しい笑顔を浮かべてる。でも、そんな余裕がない状況だってことくらい、私だって知ってる。
「お前が来ないから、俺が来た。話がしたい。」
京一の言葉が終わる前に、部屋を飛び出して階段を駆け下りていた。玄関ではなく、店に回り、ドアのカギを開けた。観音開きのガラス戸を半分だけ開き、京一の腕を掴んで引き摺りこむ。少しだけ首を出し、辺りを見回した。呼び込み、酔っ払い、遊び人。こちらに目を向ける人は見当たらない。
振り返ると、京一は呑気に店の中を見回していた。物珍しそうに、何もない棚を覗き込む。
「ねぇ、何してるの。どうやって来たの。」
腕を掴んで振り向かせる。一瞬驚いた顔を見せたが、すぐににこりと笑い掛けてきた。
どこまでも浮世離れしている新しい国の王様。こっちがハラハラする。
「私子と話をしに。ここまでは歩いて来た。」
悲鳴を飲み込んだ。思わず頭を抱えそうになる。それなら、Gボーイズがここに来るのも時間の問題だ。駅から5分でも、それまでに目は何百とある。
私の表情を読んでか、京一がふふと悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべる。
「悪い、うそだ。歩いてくるつもりだったが、うちのメンバーに止められた。ここまではタクシーで来た。誰も気づかない。」
「やめてよ、もう。こっちは心臓が止まりそうなのに。」
恐怖が怒りになって、思わず吐き捨てる様な言い方をして横を向いた。後悔する暇もなく、京一が宥めるように言う。
「タカシに脅されたか?」
正面から見た京一は、責めるでも同情するでもなく、ただ子供を諫めるような目をしていた。全てを見透かす眼。何も言えなくなる。
京一がズボンのポケットから薄い何かを出し、自分の顔の横に並べる。花柄のメモ。私がウエストゲートパークのパイプベンチに貼ったもの。私がいつも座る所の裏側に。京一なら気付くと思った。待ち合わせはいつもその中立地帯だったから。
「『今日は行けない。もう会えない。ごめんなさい。』電話には出ないし、このままじゃ本当に会えなくなると思って、ここに来た。俺が勝手に会いに来たんだ、お前は悪くないだろ。」
「そんなのタカシくんには通用しないよ。私はエンジェルスの人と会うなって言われてるの、例外はない、こんなことバレたら」
「処罰される?私子はGボーイズでもないのに、タカシの所有物でもないのに、どんな権限があってそんなことを?」
停止していた思考回路が動き出す。
そう、私はタカシくんの所有物じゃない、ペットなんかじゃない。けど、そんなこと誰が認めてくれる?私の声は誰にも届かない。誰も聞かない。タカシくんでさえ。
「…タカシくんは王様なの、この街は全部、タカシくんのものなの。誰も逆らえないの。」
自分に言い聞かせるように唱える。考えるな、考えても辛いだけ。考えても何も変わらない。
「俺は違う。俺や、エンジェルスは違う。あいつのものにはならない、あいつに従うこともしない。私子だって、そうする必要はない。支配するだけの王様なんて、この街にはいらない。」
分かってない。首を横に振った。タカシくんが支配するだけの王様じゃないことを、みんな知ってる。この街のために、どれだけ尽くしているかも。だから、誰も逆らわないんだ。
「もう帰って、もう来ないで。ここはタカシくんの場所。」
「私子」
抱き寄せようとする京一の腕を払う。それでも踏みこんで、私の身体を引き寄せる。私が京一の腕の中で暴れたのはほんの数秒だった。すぐにその体温にしがみついて、涙を流した。恐怖はない。温かい涙だった。
「私子、聞いてくれ。こんな紙切れだけのさよならなんて、俺はしたくない。もっと私子と話がしたいし、いろんな所へ行きたい。私子と同じものを見て、聞いて、思ったことを言い合いたい。私子と過ごした時間、俺はずっと幸せだった。」
夢なのかと呆然として、京一を見上げる。口元は柔らかく笑っているが、眼は真剣だった。吸い込まれそうな深い眼。タカシくんのと似てる。
「私子のことが好きだ。」
顔が眼の前まできて止まる。唇が触れそうな寸前。
「私子は?どうだ?」
やっぱり夢なんだろうか。誰かが、私のことを好きだなんて。それも京一が。
驚きで何も言えないでいると、一度伏せられた目蓋がゆっくり開く。睫毛が当たりそう。
「無理矢理奪うようなことはしたくない。俺はタカシとは違う。」
返事がほしいと呟く。
もう京一のことしか頭には残ってなかった。もうどうでもいい、今言わなければ、絶対に後悔する。
「好きだよ、私も京一がすき」
全てが言い終わる前に私達はキスしていた。初めは触れるだけ。それから京一が先に動いて、私もそれに倣って顔の向きを入れ替える。もちろん、そんなことをしたのは初めてで、知識も曖昧だったけど。京一のリードが上手かったのか、それとも私の中にある本能とでもいうのか、全てが流れるように動いた。唇も、舌も、抑えた声も、流れ込む唾液にさえ戸惑うことはなかった。ただ気持ち良かった。頭と背中に回された腕が、そこから動かないのがもどかしくなるくらい。もっと触れたい、もっと触れて欲しい。それしか考えられなかった。
酸欠になるほどキスをして、私達はまた抱き合った。ずっとずっと長い時間、そうしていた気がする。ずっとずっとそうしていたかった。
「…一緒にいよう、私子のことは俺が守るから。」
頷こうとした時、ふとお店の中に眼がいった。古いレジ、ガラス張りのドア、がらんとした木の棚。
私がここを離れたら、ここはどうなるだろう。Gボーイズやエンジェルスのよく使う店の窓ガラスが割られたという話は聞いている。ボヤが起きた店もある。私がここを離れたら。
タカシくんは必ず報復をする。裏切りは許されない。私は帰る場所を無くす。
「いけないよ。」
言葉が口から零れていた。京一は驚いて、どうしてと言った。
「私がここから逃げたら、このお店がペナルティをくらう…。ここには家族もいるし、お店がなくなったら、うちはやっていけない…。」
今度は私が宥めるように京一の腕を撫でた。無理して笑って言う。
「バレなければ、だいじょうぶ。心の中まで、タカシくんは見えない。いつか、また会える。だから、だいじょうぶ。」
けど、と京一は言ったけど、私の顔を横に振った。
「タカシくんは、私が逆らわなければ満足なの。だから、良い子にしてる。ここ以外のどこかで会えばいい、二人で、隠れ場所を探して、誰にもバレないようにすれば。」
そう、バレなければいいだけ。タカシくんは私を好きな訳じゃない、ただ思い通りに動かない私が嫌なんだ。
「キスして」
笑って言う。安心させるように。安心するように。
「帰る前に、もう一度。」
京一は少し迷っているようだったけど、自分を納得させるように頷いて、もう一度首を下げた。
今度は私から唇に触れる。
これが私達の最後のキスにならないことを願って。