ーーー私 の夢、希望、妄想です。
IWGP
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「私子」
寝る気はなかったのに、うつらうつらとしてしまった。
驚いて顔を上げると、誰もいない。夜を包む遮光カーテンがあるだけ。
「…あれ、」
「寝惚けるな、こっちだ」
後ろから頭頂部を優しく掴まれ、こそこそと擽られる。
首だけ振り返ると、いつの間にかお風呂から上がったタカシくんが、ベッドの横に立っていた。
「どうしたの?」
「お前が真ん中で寝てるから俺の場所がない、端に寄れ。」
左右に首を振って見ると、だだっ広いベッドの真ん中に自分が居た。
あまり回らない頭で、何か言わなければと考える。
「あっためといたの。」
「寝惚けてるな。」
背中を押され、ころりと転がり定位置へ。
すぐ隣でベッドが沈む。タカシくんからは、ほかほかと温かい空気が伝わってくる。
私が寝転んだシーツの上はひんやりとしていて、体温が奪われる。眠気も吸いとられてしまうようだ。覚めてきた頭の中で、タカシくんに八つ当たりする。
黙って寝かせてくれたらいいのに。これでタカシくんが先に寝たら、この冷えてきた手で鼻をつまんで起こしてやる。
「私子」
突然呼び掛けられて、どきりと心臓が弾んだ。彼は変に勘が鋭くて困る。他人の心を読むなんて簡単なんだ。
首を持ち上げてみると、目を瞑ったままタカシくんが口を開く。
「欲しいものないのか?」
頭を枕に戻し、私も目を瞑った。
「別に、ないよ。」
言い慣れた台詞を口にする。いつものように。
「お前は毎年それだな。」
何の感情もこもっていない声に聞こえた。呆れでも怒りでも落胆でもないけど、一番私の胸に重く沈む声。
タカシくんが私に欲しい物を聞くのは、決まって誕生月の一月前。
儀礼的に聞いてくる。誕生日に一緒に居てもくれないくせに。
「だってないんだもん。」
周りの女の子に比べて、私にはあまり物欲がないみたい。バイト代じゃ服もアクセサリーもバッグも買えないと嘆く友人を見て、関心すら覚える。その貪欲さが羨ましくもある。
私は何でも諦めるのが早いから。
手に入らないと思うと、もう手に入れようという努力をする気も起きない。どうせ私のモノにならないんだから、遠くから見ているだけでいい。
「じゃあどこか行くか?」
「行きたいとこもないし。そっちは忙しいでしょ。」
可愛くない。自分でも何でこんな言い方ができるのか驚く。それでも腹が立って仕方ない。
欲しい物を聞くくせに、私が本当に願うものはくれない彼に。欲しいと口にする勇気もない自分に。とにかく誕生日なんか大嫌い。またしても八つ当たり。
「誕生日が近付くと不機嫌になるな、それも毎年だが。」
おかしそうに笑う。
私は全然おかしくなんかない。そんな余裕もない。
「誕生日なんか喜ぶ歳じゃないの。歳なんかとりたくない。」
変化なんか望んでない。ずっとこのままでいい。関係性が変わらなくても、今のままで充分、私は満足。多くを望んで、崩れるよりはずっとまし。
「子供のままでいたいのか」
クスリと笑う音がする。背中を向けているから、見えるはずはないのだけれど、思わず顔をしかめた。
「私もう子供じゃない。」
ふんと鼻を鳴らされた。今日は表現豊かな王様だ。私が不機嫌だと、タカシくんはご機嫌になる、いつものこと。ご機嫌麗しくて何より。
「若いままでいたいだけ。みんな若いってだけでちやほやしてくれるし、甘くなる。世の中そういうものでしょ。」
「お前ちやほやされたいのか、そういう願望があるとは知らなかった。」
馬鹿にして。私も彼の真似をして、ふんと鼻を鳴らしてやった。
「タカシくんには分からないよね、いつだって注目の的だもん。」
別にちやほやされたいなんて思わない、若い女ってことでしか私に興味を持たない人になんて。私だけを見てくれる誰かさんが一人いればそれでいいのに。それは絶対に叶わない。手に入らない欲しい物。忌々しい、なのに大好きな人。
「俺を見ている奴なんて誰もいない。」
今度は本気で鼻が鳴る。嘘ばかり、男も女も、みんなが彼を見ているのに。
「皆、見せかけのキングにしか興味がないんだ。別に、そいつらに見て欲しいなんて思わないがな。」
振り返ると、彼は思ったよりもゆったりとした顔を天井に向けていた。
「…そんな事、ないと思うけど」
あのギャング達も、皆本当に彼を慕っていると思うし、女の子達は本当に彼に夢中だ。
タカシくんは口角を上げて見せたけど、笑っているようには見えなかった。
身体ごと彼の方に向けて、頭を枕に乗せた。
「みんな、タカシくんのこと好きじゃない。」
「俺はお前と違って、みんなに好かれたいなんて思わないんだよ。」
彼のうんざりという表情を見て、胸の中で何かが重く沈んでいく。
あぁ、そうか…。愛され過ぎる彼にとっては、好意さえ鬱陶しいものなんだ。
私も、あの街の女の子のように、彼への好意をあからさまにしたらきっと遠退けられるだろう。彼にはそんなの鬱陶しいだけなんだから。
ほらね、やっぱり強欲は罪。このままでいいんだ。
彼が望んだ時だけ、私は私を差し出せばいい。それしか彼は求めない。
私はまた諦める。心のどこかがまた死んでいく。
「…おやすみ。」
タカシくんからは返事は返って来なかった。
横から見た綺麗な顔は、ほんのわずかな明かりだけでも見惚れてしまう。
目蓋は閉じられたまま。もう寝てしまったのかもしれない。
ごめんなさい。
思わず口から零れた言葉に、驚いた。
彼を見る。穏やかな寝顔に変化はない。聞かれてない、良かった。
慌てて、彼に背中を向け、目を閉じる。
思い上がって馬鹿みたい。少し相手にしてもらって、舞い上がって。他の子とは違うなんて勘違い。私は、街で彼を眺めてる女の子たちと何も変わらない。ただあの子達より近くにいただけ、少し前から知っていただけ。特別でもなんでもないのに。
もしかしたら、彼はそんな私に気付いて釘をさしたのかもしれない。強欲な私への警告。
布団を被って、涙を覆い隠した。
だったら欲しい物なんて聞かないで。思わせぶりな態度で可愛がったりしないでよ。
私を勘違いさせないで。私は馬鹿だから、すぐに優しさを勘違いしてしまう。
まるで愛されてるなんて、馬鹿な勘違い。
こんなの辛すぎる、明日の朝になったら、彼に別れを告げようか。
付き合ってもないのに別れを告げるなんて変だけど、もう会わないと言ったら?
理由を聞くかもしれないし、分かったと頷くかもしれない。でも、きっとすぐに了承するんだろうな。代わりはいくらでもいる。
出来もしないことを延々と考えて、溢れる涙をそのままにした。
私は彼から離れられない。それは自分が一番よく分かってる。
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