バタバタと出勤支度をする。

｢もう～～！何であんな徹夜しちゃったの～～～！私ぃ～～！｣

大事な書類やらデータをカバンの中に詰め込んで
少しだけ背伸びをして買った控え目な紅いパンプスに脚を通す。

職場があまり遠くならない場所を選んで良かったと常々思う。

電車に駆け込みながら
ふう…と息を吐きつつ、時計を見やる。
大丈夫。間に合う。

夏休みなんてなくなって2年目。
通常に働いている。

あっと言う間に、書類選考、筆記、面接を勝ち抜いて
この職場まで辿り着いたのだ。

株式会社&you(アンドユー)
という雑誌の取り扱いが多い会社。
他にも小説や漫画も取り扱ってるが雑誌がいちばん多い。
私は…ここの…
｢よお。新入社員も来て、これからって時にギリギリは関心しねえぞ。白鷺。｣
少し長身で30前半の若さで私の所属する編集長を務める蓮見薫さん。
｢すっすみません…！｣
ひえ～～分かってる。分かってるから。そんなに言わないで～！

朝一発目に会うなんて…そのままエレベーターに乗り込む。
｢どうせ夜中まで推敲でもしてたんだろ。｣
｢…おっしゃる通りでございます…。｣

私はこの会社で女性向け雑誌を担当できている。
まだ2年目なこともあり、校正が主な仕事だ。
…でも記事を任せられるこのコンペ用に張り切って作っていて無事寝坊だ。

｢お前はうちの部署でもよくやってくれてる。お前に1度は校正回したいとかなんとか、言ってたぞ。｣
｢…褒められることないので…嬉しいです…。だからこそ、今回のコンペ勝ちたいんです。｣
ギュッとカバンを握り直すと目的の階に到着する。

｢お前の初だしになるからな。頑張れよ。まあ贔屓はしてやらねえけどな。｣
あと寝坊も許さねえ。

そう言われてバラバラになった。

｢あ、おはよ～遅めの出勤だね？｣
｢おはようございます～！ちょっと張り切りすぎちゃって…えへへ。｣
私の教育係の香山さん。
大人な色気といい美しさといい、推敲される文も多彩な上に、とてもお世話になっている。
大好きな先輩だ。

｢もう。程々にね、って言ったわよね？私。｣
軽いウェーブのかかった髪を横耳にかけるとダイヤのピアスが光る。

｢あれ？先輩、ピアス変えたんですか？｣
いつもは少し大きめの金色の縁で薄ピンク色の石がハマっている可憐なものを着けていた。
｢あぁ、そうなの。貰い物よ｣
素っ気ない言葉だったけど、彼氏から貰ったのかな…。
香山先輩には、彼氏がいる。うちの部署ではなく営業部にいる。
才色兼備、美男美女のカップルなものだから、会社内公認みたいなものだ。