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風坂小話

いい子にしてたご褒美


 今日は新聞部の活動は休み。
 それなのに真面目な後輩君は少しだけ原稿を進めたいと言うので、優しいボクは律儀に待っている。でも――ものすごく退屈だ。
 せっかく二人きりなのに坂上君の目線は、ボクじゃなくタブレットの画面。
 話しかけても、頬をつついてみても「邪魔しないでください」とあしらわれて、ボクは大変傷ついている。
 こういう時の坂上君はかなり頑固だから、しつこくちょっかいを出しすぎると本気で怒ってしばらく口も聞いてくれなくなるんだよな。
 仕方なく頬杖をついて、坂上君の丸っこい横顔を黙って見つめる。
 キミの恋人は誰だ? そのタブレットかい? 少しは構ってくれてもいいじゃないか!

「坂上くぅん……いつ終わるんだよぉ。ボクはいい加減待ちくたびれたよ~」
「はいはい、もうすぐ終わりますから、いい子で待っててください」
「むぅ……」

 まるで子供を言い聞かせるかのような言い方に、むっと頬を膨らます。
 あのねぇ、ボクのほうが年上なんだぞ、なんだいその物言いは。常々思っているけど、キミはボクに対する敬意が足りないよ!
 机に突っ伏し、どうすればこっちに意識が向くか考えていると、机の上に置かれている坂上君の左手が目に入った。小さいけれど、女の子とは違う少し骨ばった男の手。
 その手に触れると何か言いたげな、ジトッとした視線が向けられる。まったく、それは恋人に向ける目つきではないよ。ボクは肩をすくめる。

「大人しく待ってるからさ、手だけ貸して?」

 そう言うと坂上君は怪訝そうに首をかしげ「いいですけど……」と素っ気ない返事をして、またタブレットに視線を戻した。
 こんな健気で物分かりのいいボクに、そんな態度を取るなんてキミくらいだよ…本当に冷たい。もういいよ、キミの手に構ってもらうから。

 坂上君の手を取り、手のひらを合わせ比べてみると、体格差のせいかボクの手のほうが一回り大きい。
 子供みたいに温かい手。几帳面に切り揃えられた小さな爪と、細い指。力加減を間違えたら簡単に折れてしまいそうだ。

「坂上君の手は小さいねぇ」
「風間さんの手が大きいんですよ」

 にぎにぎと軽い力で握り、指を絡めるとボクの指にためらいがちに絡め返してくる。
 こんな風に、二人きりの時にしか手を繋いでくれないんだから。ボクは気にしないのに、そんな恥ずかしがり屋なところも可愛いけれど。

 握った手の温もりに少し悪戯心が芽生え、指先で優しく撫でると、坂上君がくすぐったそうに身をよじる。顔を見ると、ほんのり頬が赤くなっていた。
 くすぐるたびに反応するのが面白くて、観察をしていると…坂上君と目が合う。だけどすぐに逸らされてしまった。

「……あの、風間さん、くすぐったいです」
「あぁ、ごめんごめん」

 一生懸命タブレットの画面に向かい合ってはいるけど、左手に気が取られているのか、ペンを持つ右手が止まっていた。

「手、止まっているけどいいのかい?」
「え、あ……」

 ペンの進みが止まっていることを指摘すると、ぎこちなく動き出す。
 互いの指を絡ませたまま、坂上君の手を自分の口元に寄せ、手の甲や指に一本ずつ、ちゅっと口づけをする。
 そうしていると、坂上君の手にじわじわと熱を帯びてくるのを感じる。

 静かな部室に、リップ音と坂上君の息遣いがわずかに響く。
 唇でゆっくりと指をなぞる。ついに耐えきれなくなったのか、震える声でボクの名前を呼ぶので思わずくすくすと笑いがこぼれてしまう。

「あれ? まだ続けていても構わないよ」
「そ、そんなこと言われても、集中できるわけないでしょう……!」
「ふふ、じゃあ、もう終わりでいいよね?」

 「ずるいですよ……」と、ようやくボクに向けられる坂上君の目線。顔を真っ赤にして、涙で潤むその目で見つめられ、ゾクリと体の芯から震える。
 キスしていた指をパクリと咥え、軽く歯を立てると、坂上君の口から小さな悲鳴が漏れた。ボクはすっと目を細め、微笑む。 

「か、風間さん……?」
「ねぇ、ボク、いい子にして待ってただろう?」

 ――だから、ご褒美、ちょうだい?



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