大将の嫁


ひと月くらい経った非番の日
流行りの菓子を片手にぶら下げて、近藤宅の呼び鈴を鳴らす
事前に連絡をしてから行ったわけでもないし、留守なのかなかなか嫁さんは出てこない

仕方ねぇと帰ろうとした瞬間、カチャリと施錠の解かれる音がした


「………十四郎、くん……?」


微かに開けられた玄関の隙間から覗かせた嫁さんの顔は明らかに泣いていたような表情で、目が合った途端にまた一粒こぼれ落ちた

そのまま玄関の中に入れられる
訳が分からず、どうした?を繰り返すしかない俺に、暫くしてから嫁さんは一枚の名刺を渡してきた

見たことのある名刺
自分も貰ったことのある名刺

『すまいる』と書かれているのがはっきり見えた

瞬時に悟って反論した
けれどそれは近藤さんの部下としての擁護から入ってしまう


「妻にとってキャバクラなんざあり得ねぇと思うかもしれねぇが、接待でよく使う店なんだよ。気持ちは分かるが、これも仕事だと思って我慢してくれねぇか」


また目が合って、こぼれそうな涙に胸が苦しくなる

本人も辛いのだろう
俺の着流しを掴んだ手は微かに震えている

そしてその辛い原因がもうひとつあったことを告げられた


「……お、お妙さんて方が……いるのでしょう?」


馬鹿正直な近藤さんは、志村妙のことを綺麗に全部話していたらしい
もう未練はない、例えそう告げていたとしてもいい気分になるわけがないと気付かないのだろうか


「……すまねぇ……俺からよく言い聞かせておく」


何故か当人のように頭を下げて、玄関を後にしようとした

去り際に「ありがとう、十四郎くん」なんて

心臓を鷲掴みにされた


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