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「饅頭でいいよね……?」
温泉にきたんだもの饅頭でしょ、自分に言い聞かせて会計へと向かう
ありきたりだと文句を言われそうだが、そう言われたらやらないまでだ
土産屋から歩いてバス停を目指す
この菜の花畑ももう見納めだ
胸いっぱいに空気を吸い込んで、身体を満たして歩いた
寂れたバス停に自分以外の客はいないと思っていた
が、笠を目深に被り派手な蝶々柄の着物を纏った先客が一人
「………いいわねそれ、日よけになって」
親指でくいっと上げると、高杉の右目が覗いた
二人並んで遅れてくるだろうバスを待つ
誰に見られてるわけでもないけど滑稽に思えてくる
「ねぇ……結局あんた何しに来たのよ?」
問うも返事は返ってこず
「ねぇ高す「お前の顔を見に来た」
笠が飛んで髪が舞う
木の葉達が風にざわめいてざわざわ鳴る
まるで自分の心の様だと芽衣は固まった
「それだけだ」
言いながら右手を出す高杉
「な……に?柄にもないじゃない……握、手?」
顔を見ればいつもの顔
本気か冗談かもわからない
「じゃ、じゃあ……握手させていただきますけど……」
恐る恐る右手を差し出すと、掴んだ拍子に胸へと抱き込まれた
何分そうしていただろうか
抱きかえしもせず寄り添う形で
ただ涙は止まらなかった
「………高杉……ひとつお願いがあるの……」
「なんだ」
「……銀時の事……殺さないでっ……」
目も見れず、ただただ懇願する
「そりゃあ無理だ。誰であろうと邪魔するものはぶっ壊す」
「……どうしても?」
「あぁ……絶対にだ」
それを聞いて涙を拭って顔を上げた
「銀時だってただじゃ殺られないと思うけど……もし……もしあんたが勝ったらさ……ちゃんと私のことも斬ってね?」
「……あぁ、お前の事はちゃんと俺が斬ってやる」
ふざけた約束に聞こえるかもしれないが、これが高杉との別れの言葉
もう会う事は無いと願っての最後の言葉
遠くでバスのエンジン音が聞こえている
胸から離すと繋がっているのは指先だけになった
「じゃあな」
「じゃあね」
名残惜しくも中指が離れると、高杉は一瞬にして姿を消した
バスに揺られながら、ぼんやり外の景色を眺めている
車内に他に乗客はおらず、貸し切り状態
運転席からは鼻歌が聞こえてきて、こちらも自分の世界だ
その運転席の開いてる窓から入ってきたのか、蝶がひらひら飛んでいる
芽衣の近くを飛び回るそれを、優しく外へと逃がしてやった
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