一夜
名前変換について
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
祭の輪の中ではない
木々の向こう
林の奥の奥
出来るだけ騒ぎから外れた場所へ
「ちょっ……!?何処いく……きゃっ!」
ひとつ大きく太い幹を見つけると、女を押し付け止まった
僅かに届く祭の火も月明かりも、木々に遮られて微々たるもの
探るように頬に手を当て、顔を近付ける
「………違う男を知れば、変わると思わんか……?」
おおよそ普段の自分の口からは出るはずもない言葉だった
祭のテンションに当てられたのか
それとも違う何かか
軟派な自分に戸惑いながらも唇は触れ合った
「んんっ……!!」
瞬間震える女の体
そんなものお構いなしに角度を変えては口づける
反論はいらない
する間を与えない
辺りに唾液の絡まる音が響き始めた頃にはもう、互いに覚悟を決めていた
少し汗ばんでいる首筋に唇を落としながら帯を緩めて前を開く
次に何をするのかされるのか、大人な二人には容易にわかった
次第に息は荒くなり、卑猥な声もあがる
重なった影に気付く者はおらず、祭は最後を迎えようとしていた
パーーーンッッ
夜空に咲き乱れる炎の大輪
明かりが二人の影にも届いて姿があらわになる
途端羞恥に襲われ二人で果てた
無言で衣服を整える二人に花火の爆発音が降り注ぐ
言葉がいらなくて助かると、お互い内心思っているに違いない
花火の下、不意に目が合う
女の目が言っていた
"どうしてこんな事を?"
そしてそれは言葉になる
「強姦まがい、ですよ……」
「まがいでよかった……同意と捉えたが、いいのだろうか?」
「……………」
無言の顔には羞恥が広がっていた
今更何を恥じるというのか、女は更に言う
「失恋の痛手をなんとかしようと来てみて……まさかこんな事になるとは思ってなかったわ……」
ゆっくりと祭の輪に戻ろうと足を進める女の背中に声をかける
「………引き込まれたのだ、その目に。いや、存在にと言うべきか……だからと言ってしていい事だとは思っていないが……」
「変な話よね……嫌じゃなかったわ。強引に連れてく割には貴方、優しく抱くんだもの」
クスクスと笑いがこぼれる口元に安堵した
林を出た頃には自然と手が繋がっていた
「……想いは簡単には消えないだろう。しかし人は前に進まねばならん。どんな事があろうともだ……」
言い終わると同時に、祭最後の特大花火が上がった
町民を照らし、二人を照らし、花火はものの数秒で姿を無くす
歓声から感嘆に、そしてそれもただのざわめきに変わって祭が終了した
ぞろぞろと家路につく人々を眺めながら、相変わらず二人は立っている
エリザベスがこちらに気付いて向かって来るところだ
「あ、あの生き物……」
「俺の友だ。どうやら十分に楽しめたらしい……そろそろ行く時間か……」
人々に紛れて姿を消すには丁度いい頃合い
どこからか笠を取り出すと、きつく紐を結んだ
「…………また……会えるかしら……」
ゆっくりと首を横に振る
「…………来年はきっと違う男と来れるだろう。だからもう、泣くのはやめた方がいい。幸せが逃げてしまうぞ?」
微笑むと向こうも笑顔を返して歩き出した
まだ帰らないと泣く子供の声
後片付けに終われる大人達の愚痴
そんなものお構いなしに戯れる恋人達
エリザベスが沢山の土産を抱えて横に着いた
あぁ
またひとつ夏が終わった
.
終
3/3ページ