一夜
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江戸ではないどこかの町
流れるように歩いてたどり着いたどこかの町
エリザベスと共に今夜の寝床を確保しようと思案していると、どこからともなく笛の音が聞こえてきた
「ん……?なんだ?向こうの方がやけに明るいが……」
『お祭りみたいですよ、桂さん』
プラカードの奴は催しを察すると、ペタペタ早足気味にそっちへ向かう
「おい、エリザベス!勝手に歩き回るなといつも言ってるだろうが!」
そう言って後を追う自分が随分丸くなったと苦笑いが出る
笛に続いて太鼓が地響きとなって腹に浸みてくる
神輿を担ぐ男達が現れると、人々の笑い声が歓声に変わって、更に祭が盛り上がった
「立派な神輿だな……そう思わんか、エリザベス」
追い付いたはずのエリザベスの姿は隣になかった
大人達から逃れ、的屋で遊ぶ子供達に紛れてりんご飴を食べている
ため息と共に笑みもこぼれる
「全く……何をはしゃいでいるのだ……」
久しぶりにハネを伸ばしているエリザベスを止めるのも野暮な話で、少し木陰に身を隠して遠巻きに見ていた
のを見られている視線を感じる
ゆっくり目で辿ると、意外にも女が視界に入ってきた
自分と同じ様に、祭から距離を置いて眺める女
向こうもこちらの事を不思議そうに見ていた
「……………どうして……向こうに行かない……?」
江戸よりは自分の顔が知られてないと安堵していたのか、珍しく他人に話し掛けてしまった
カサンと草を鳴らしてこちらに近付いてくる女は
「……嫌だからよ」
と、静かに言った
自分より長いであろう髪を高い位置で束ね、そのおくれ毛が汗で首に張り付いている
長いまつ毛をまとった少し垂れ目の視線は、舐める様に見ている俺とぶつかったまま
祭が嫌いと言ったはずの女は浴衣姿だった
「嫌いと言ったが……どうしてここに来ている?来なければいいではないか」
「………間違ったわ、ごめんなさい。嫌な思い出を……塗り替えたいから……」
悲しく笑うと俺より一歩前に出て話始める
「振られたの、去年ここで……こんな楽しい場所で、はいサヨナラって言われたの。笑っちゃうでしょう?」
更なる盛り上がりを見せる祭囃子と歓声に、遠い目を向けて話す女に言葉を返す
「……別に笑いはせんが……それなら尚更向こうに行けばいいのではないか?楽しい事が待ってるだろう?」
女はゆっくり首を振ってこちらに顔を向けた
「……駄目よ……だって彼が……違う女の人連れているかもしれないじゃない……そんなの……見たくないのよ……」
後半涙声になっていて、女の想いを知った
未だ吹っ切れていない想い
それをなんとかしようという想い
気が付けば彼女の手を引いていた
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