隠し事
名前変換について
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書き上げた手紙を出そうと芽衣に頼む為、部屋へ呼んだ
「わかりました、午後でもよろしいでしょうか?他の用事もありますので、その時一緒にでも……」
「あぁ、構わないぜ。悪ぃな……こんな雑用頼んじまって」
「いえ、私の大切な仕事ですから……小さな事でも頼っていただけると有り難いです」
何年経っても謙遜の姿勢を崩さない芽衣には頭が下がるばかりだ
生意気な部下達に爪の垢でも煎じて飲ませてやりてぇ
給仕係りながらも芽衣は隊士達からの信頼も厚く、今やこの屯所になくてはならない存在になっている
「ん……?芽衣……ここ、首んとこ……怪我でもしたのか?」
ふと目に留まった手当のあと
確か昨日はなかったはず
「あ、はい……実は私も皆さんの真似で……見様見真似ですが……剣術の稽古をしております。今朝はドジを踏んでしまい、かすり傷ですが付けてしまいました」
恥ずかしそうにそこを掌で覆う
何も女のお前が剣の腕を上げる必要はねぇと諭して、何かあったら自分が護ればいいという気持ちは隠した
「それではこれはお預かりします」
芽衣が俺の部屋から出ようとした時、丁度入れ違いに近藤さんが入ってきた
「……なんのようだ、近藤さん」
上司に対する口の利き方ではないのを訂正もしない
それを気にもしないで近藤さんは話し始めた
「実はお前に頼みがあってよ。なぁトシ、今夜一緒にお妙さんの処に行かねぇか?」
お妙の『お』位で近藤さんに鋭い眼光を向ける
目だけが合って沈黙が広がった
「……芽衣、下がっていいぜ……」
「……はい、失礼致します」
お辞儀をすると芽衣は静かに出て行った
いや、追い出したと言うべきか
これ以上芽衣の耳に入れるのは酷だと思ったから
「ん?芽衣ちゃん居たのか。なんだ、言付けか?」
その存在にすら気付いていなかったらしい局長に吐き気がする
「……近藤さん、俺は行かねぇよ。頼むからもう誘わないでくれ」
「いやなぁトシ。お妙さんの友達がお前の事見てみたいって言ってんだよ、一緒に来てくんねぇか?」
「なんで顔も名前も知らねぇ女の為にわざわざ足を運ばなきゃなんねぇんだ、御免被るぜ」
「でもよォ、お妙さんと約束しちまったんだよ……な!?頼むよトシ!この通り!!」
パンッと両手を合わせて軽々しく俺に頭を下げる近藤さん
堪忍袋の緒が切れるとはこういうことだったのか
感情に任せて上司の胸倉を掴んでいた
「近藤さん、いい加減目ェ覚ませよ。あんたが誰に惚れようと止める権利は誰にもねぇ。けどな、回りを巻き込むのはやめてくれ!!俺はあんな場所死んでも行きたくねぇし、用もねぇ!それなら三日三晩休み無しで見廻りしてた方がまだマシだ!!」
言い終わるのと同時に突き放す
「な、なんだよ急に……悪かったよ、勝手に約束なんかしてきてよ……ちゃんと断っておくから……でもよトシ、お前そんなに飲み屋嫌いだったか?」
あぁ嫌いだとも
真選組のトップである近藤さんを、曲がりなりにも虜にして毎夜通わすあの女が働く店
望みは無いと知ってか知らずか、毎日馬鹿みたいに追い回す近藤局長
そんな奴らが集まる空間に興味すらない
「……悪いな、近藤さん……」
そう告げるとこっちこそと苦笑いを残して消えていった
本当は気付いている
自分が一番卑怯だということに
すべてを知りながら傍観している自分が一番臆病者だと
真選組内での立場を理由に何も動こうとしない自分
それならまだいい方か
自分の気持ちさえ隠して、どこかで傷付きたくないと恐怖を感じている節がある
最悪だ
一番嫌いなのは
自分だ
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