契約恋愛
今日は天気がとても良い
こんな日は屋上で昼メシだと、銀八先生から連絡が来た
この契約が結ばれてから、数日が経った
先生からのメッセージも、学校で交わす言葉も、日に日に慣れてきた気はする
でもやっぱり、面と向かっては恥ずかしさが勝ってしまう
先生が意味深に笑う目元も口元も、偽りだとわかっているのにときめいてる自分がいるのだ
「……なんだかなぁ……」
屋上の端に座り込みながらポツリと呟いた
もう既に、失恋したのが1年前くらいに思える
線路に飛び出そうとしたのは夢じゃないだろうか
先生の言った通り時間が解決してくれそうだし、新しい恋がこんなに効力を発揮するとは……
「ち、違うから!恋じゃないし!嘘だから!!」
思わず声に出て、玉子焼きに箸をぶっ刺した
広げていたお弁当を思い出して、何かを誤魔化す様に大きく口を開く
「いや、彼氏待たないで食う気かよ」
錆びた音を立てて開いたドアから顔を出したのは、ここで昼ご飯を食べようと提案してきた先生だった
いつもの白衣姿のまま、コンビニ袋を手にぶら下げてのっそりこちらに向かって来た
相手を待たずに食べようとした不躾な行いに、慌てて言い訳を並べていた
「お、お腹空いてて……」
「ま、いいけどよ。は〜、風が気持ちいいな」
そのまま先生は私の横に座る
当たり前に腕が触れ合う距離に来られて、肩に力が入ってしまった
「先生……ここ、立ち入り禁止なんですよね?」
「そうだけど?張り紙あっただろ?」
「見ましたよ。だから入るのを躊躇っちゃって……いいんですか?」
「いいのいいの。こんなのバレねぇから」
そう笑って、先生はパックのいちご牛乳に直接口を付けて飲みだした
とことん甘党なんだなと苦笑いが溢れる
自分も食べるのを再開して先生曰く、秘密のランチデートが始まった
と言っても、別段取り立てて話すことはない
毎日会ってるわけだし、クラスの話題は筒抜けだ
勉強がどうとか、そんな話はしたくない
横から聞こえる菓子パンの包装を破る音に目を向けて、余計なお世話かもしれない言葉を投げ掛けた
「先生、普段からそういうものばっかり食べてるんですか?」
「ん?まぁ……大体そうだな。コンビニ行けばなんでもあるし」
「……身体には悪いと思います。ジュースに飴に……菓子パンまで食べたら病気になりますよ」
「お前……」
少し目を見開いた先生が私をジロジロ見てくる
やっぱり余計なお世話だったかと話題を変えようとした
「そういえば今日東城くんが「俺の心配してくれてんの?」
今度は私が目を見開いて、暫く硬直してしまった
その間、耳に届く先生の声
「いや〜りおがねぇ……俺の事を……へぇ……」
そう言ってニヤニヤした顔を向けているのを横目に感じる
あまりにもわざとらしくへぇだのふーんだの言うもんだから、どんどん赤くなる顔を隠すようにそっぽを向いて、何とか出た言葉はツンデレ女子そのものみたいで恥ずかしかった
「べ、別にそういう訳じゃ……!そんな食生活知ったら言いたくもなりますよ!」
「ふ〜〜ん……」
見なくてもわかる先生の表情に意味有りげな声色
そっぽどころか背を向けて、絶対に顔だけは見られまいと警戒態勢に入った
その後ろでガサガサ鳴る袋の音
まぁ、こんな事を言われた所でお昼ご飯を食べない訳にはいかな
トンッ
「…………え?」
「何でそっち向くんだよ」
自分の背中に掛かる重みと、首筋に当たる先生の柔らかな髪の毛
私の背中にもたれ掛かってきた先生は、小さくそう言うとそのまま頭を擦り付けた
「ちょっ……何して……!」
「何って……甘えてんだろ」
「甘っ……!?」
「お前が俺の事見てくんねーから」
「だ、誰かに見られたらどうす「誰にも見られねぇよ」
顔が近過ぎて、声が近過ぎて、これ以上無い程に身体が硬直してしまう
背中から感じる先生の温もりに心臓がバクバクして、食べたお弁当が口から出てしまうんじゃないかって本気で思った
「俺に揶揄われて照れちゃった?可愛いトコあんじゃん」
「そ、そういうわけじゃっ……ていうか……離れて、下さいっ……」
「んー……もうちょっと」
そのまま先生は静かになって私に身体を預けていた
もちろん私もこれ以上声なんて出せずに仕方無しに受け入れてしまっている
たまに先生は「疲れた」とか「眠い」だとかを口にして、私はそれに相槌を打つだけだった
「……先生」
「んー……?」
「も、もう少しで……お昼休み終わりますっ……」
「……マジか。もうそんな時間か」
眠そうな声と共に先生が身体を起こす
久しぶりに軽くなった背中にホッと胸を撫で下ろして、この熱さは先生の温もりなのか自分の体温なのかはわからなかった
只々先生の顔を見れなくて、弁当箱を片付ける名目でまた身体を背けた
「残してんじゃん、弁当」
「だって……先生がっ……」
くっついて来たから気が気じゃなくて食べれなかった、とは言えない
口籠っていれば、それはお互い様だと目に入った
「先生だって……パン残してるじゃないですか」
「いや、お前が身体に悪いって言ったんだろ」
「そうですけど……食べなかったらお腹空くじゃないですか」
まさか自分の言葉を真に受けて残してるなんて気付かなかった
悪い事をしたなと思いつつ、何処か心がほわほわする
私の一言がきっかけになるなんて、思ってもみなかったから
「りお」
「あ……はい」
少し気が緩んだ私に先生が声を掛ける
振り向いた私の目に飛び込んできたのは、人生で初めての光景だった
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